てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年4月20日〜2012年5月4日分)

 マルコム・マクラーレン(1946-2010)という人を、心の底から尊敬しています。音楽ファンの中には「とりあえずマルコムって奴を否定しておけば問題ない」というヘンテコな風潮がありますが、そういう流れには真っ向から歯向かいたいと思います。とはいえ、彼が早死にした事実をつかまえて、さすがに「善人だったから」とは思えませんが(笑)。さて、世界で最も成功した「演奏できない音楽家」の一例でもあるマクラーレン作品の中から、当時はもの凄く大きな話題になったのに、今ではなんだか忘れられがちな楽曲ってのをいくつか並べてみたいと思います。(2012年4月20日更新分/選・文=大久)


Malcolm McLaren / Aria on Air (1989)

 1989年にブリティッシュ・エアウェイズの企業イメージCMのために制作され、世界中でオンエアされた曲です。オペラ曲「花の2重奏」を元にした楽曲のアイデアを音楽家YANNIの元へ持っていったマルコムは「オペラ・ハウス」という新しいジャンルを作り出しました。マルコム本人のプロジェクト「WORLD FAMOUS SUPREME TEAM」名義で発表されましたが、今ではYANNIのコンサートのハイライト・ソングになっちゃってますね。んー。


Malcolm McLaren / House Of The Blue Danube (1989)

 89年にマクラーレンは5年振りとなる久々のアルバムを発表しています。「WITHブーツィリア・オーケストラ」とクレジットされているように、バックのオケは主にブーツィー・コリンズが担当。上述「ARIA」路線を踏襲したフルオケ+ファンクというアルバムでした。ヨハン・シュトラウス2世「美しく青きドナウ」をネタにしたこちらの曲で、流麗なオーケストラに不似合いなギンギンのエレキギターを弾いているのはジェフ・ベック。不似合いな、と書きましたが、実は「すごくベックらしい」プレイでもありますよね。


Malcolm McLaren / Rockin' Waltz (1989)

 同じくヨハン・シュトラウス2世「皇帝円舞曲」を元ネタにしたこちらもブーツィリア・オーケストラ&ジェフ・ベックをフィーチャーした曲で、アルバム未収録曲。日本ではフィリップ・モリスのタバコのCMで使用された曲なので耳に馴染みのある方もいるかと思います。「オペラ/クラシックのフルオケ+打ち込みダンス・トラック」という手法は既に84年の「蝶々夫人」の頃に確立していましたが(そっちのプロデュースはスティーヴン・ヘイグ)、89年のこちらのプロデュースはフィル・ラモーン。


Malcolm McLaren / Madame Butterfly (1984)

 上記したような路線の発端となったのは、勿論84年に彼が発表しヒットしたこの「蝶々夫人」のヒップホップ・ヴァージョンだと思われます。オペラMEETSヒップホップ、という新しい発想を具現化したアルバム『FANS』はこの「蝶々〜」の他にもプッチーニの「トゥーランドッド」、ビゼーの「カルメン」等のオペラ楽曲を引用したアルバムとなっています。


Malcolm McLaren / About Her (2004)

 2004年、クウェンティン・タランティーノの「キル・ビル」の続編が制作された際に、マクラーレンがサントラ用に曲を提供しています。とはいえこの曲は60年代のゾンビーズ「SHE'S NOT THERE」の改作(というかまんまカバーですね)でしたが、映画と共に話題になったのも記憶に新しいところです。余談ですが、99年には(日本の)PUFFYの「アジアの純真」をズッタズタに切り裂いた最高に痛快なダブ・ミックスも制作しています。
 
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 人に歴史あり、とは言いますが、当方にはそれほど自慢できる歴史はありません。では現在偉人といわれる人達が「そう呼ばれる前」がどんなだったのか、というのはやっぱり興味深いデーマですよね。YOUTUBEにはそういう面白動画も沢山ありますので、ちょっとピックアップしてみました。今回は「あの人この人の若き日のTV出演動画」です。以下のもの以外にも「フランク・シナトラの1950年初TV出演」なんて動画もありますので、興味のある方は検索してみて下さい。(2012年4月27日更新分/選・文=大久)


BBC-TV "Huw Wheldon's All Your Own" (1957)

 若い頃からセッション・ミュージシャンとして多くの60年代のポップ・ソングのギターやアレンジを担当したのが、後にレッド・ツェッペリンで一世を風靡したジミー・ペイジ先生。この動画は1957年、BBC TVの「ヒュー・ウェルドンのALL YOUR OWN」という素人参加番組に出演し、友人バンドで「Mama Don’t Want To Skiffle Anymore」を演奏する、というペイジ先生13歳の時の動画です。お若い!声変わりしてない!ギターがショボい(HOFNER PRESIDENT)! でも、どこもかしもも素敵な動画です。


Liza Minnelli on The Judy Garland Show (1963)

 2歳で映画デビューしたライザ・ミネリですから、これが最初のTV出演ではないとは思われます。これは63年11月17日に放送(収録は7月16日)された、彼女のお母さんの冠番組「ジュディー・ガーランド・ショウ」に出た時のライザ・ミネリ(当時17歳)の歌&踊りです。同番組ではお母さんとメドレーでデュエットしてたりもします。同年ライザはブロードウェイ・デビュー、65年にトニー賞を受賞してますが、丁度そのブレイクの直前、ということになるんでしょうね。


Buddy And Stacey / Shotgun (1965)

 ソウル・デュオのバディー&ステイシーがメンフィスにてTV出演した時の動画です。曲は勿論当時ジュニア・ウォーカー&オール・スターズが大ヒットさせたR&B「SHOTGUN」のカヴァーなのですが、ここでの主役は派手な踊りを踊る2人組ではありません。バックバンド「ロイヤル・カンパニー」の左端で、踊りながらファンキーなギターを弾いているちょっと長身の左利きの彼。彼こそがジミ・ヘンドリックスなんですね。ジミヘン初のTV出演動画として有名な素材です(ただし動画冒頭で「この人がジミヘン」と書いてありますけど、間違ってますね)。


LYONS MAID "LUV" Ice Cream TVCF (1969)

 これは69年にイギリスのライオンズ・メイドというブランドのアイスクリームのTVCM動画なんですが、ここでキャッキャと嬉しそうにアイスを持ってバスに乗り込む青年がデヴィッド・ボウイその人でありました。64年にプロ・デビュー、売れないR&Bバンドを3つほど経験するも全滅、タレントになってマイムを勉強したり、さてどうやって有名になろうかな、と模索していた頃の彼の活動、となるのですが、不幸にもこのCMは殆ど放映されずに、キットカット(今も有名なあのチョコ菓子)のCMに差し替えられたそうです。


Bjork / I Love To Love (1976)

 ビョーク嬢の幼い頃の曲です。彼女は(両親の影響で)4歳から歌手活動を初めており、1977年、11歳の時にデビューしています。そのアルバムは地元アイスランドの古い曲ばかりをカヴァーした作品(ビートルズやS.ワンダーのカヴァーも収録)だったのですが、ビョーク本人が「なんでアタシの自作曲は入らないの?」と半ギレになった、という逸話も残る程に、幼い頃からアーティスティックな方だったんですね。この「I LOVE TO LOVE」はそのアルバム発売の前年、10歳の頃に録音された曲で、彼女の初録音曲。

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 生ぬるい風、木の芽の香り、鮮やかに発色する空の青── 若葉の季節がめぐり来るたび、ステレオで、ウォークマンで、ipodで幾度となく再生されたエヴァーグリーンな楽曲たち。諦観のうちに希望を抱きしめるような2012年の景色には、一体どんな風に響くだろう。(2012年5月4日更新分/選・文=関根)


Michel Colombier / Suite n°12 (1969)

 歓喜のクラベスに導かれ幕を開く、ミシェル・コロンビエの可愛らしい一曲。メロディの親しみやすさもさることながら、次々に折り重ねられるスキャットが爽やかな初夏の風を運んでくるよう。ゲーンズブール諸作のアレンジとも、後のクロスオーヴァー路線とも、はたまた数多のサウンドトラックにおける氏の作風とも違う、今この時期にこそ似合う若葉のソフトロック。


Richard Hewson Orchestra with Children from Corona School / Spicks and Specks (1971)

 上掲の曲を耳にしたなら続けて脳内再生されてしまうであろう、お馴染み『小さな恋のメロディ』挿入曲「スピックス・アンド・スペックス」。この曲をBGMに少年少女が緑豊かな校庭へ駆け出すシーンは今も忘れられない。この劇伴版はリチャード・ヒューソン・オーケストラとコロナ・スクールの子供たちによるコーラスものだが、オリジナルは本映画のテーマソングと挿入歌を歌ったビージーズが66年に発表したリリック付きのもの。

The Cyrkle / The Minx (1970)

 上掲2作品のイメージとはあまりにもかけ離れているエロチック・ムーヴィーのサウンドトラックなれど、90年代前半、ソフトロック知りそめし頃に同じように聴き込んでいた私的エヴァーグリーン・チューン。柔らかなアコースティック・ギターの音、優しげなハミング。上掲2作に十分通底しております。フランスのポップ・グループ、メロウが01年に担当したローマン・コッポラ監督作『CQ』のサントラは『バーバレラ』というよりむしろ、この『THE MINX』に似ていたような。


Novos Baianos / Isabel(Bebel) (1974)

 数少ないジョアン・ジルベルト作曲作品の中でもとりわけ美しいメロディーを持つ「ベベウ」の、素晴らしすぎるノーヴォス・バイアーノス・カヴァー。メンバーが入れ替わり立ち替わりハミングで歌い上げる序盤から、音色の異なるエレクトリック・ギターが2サイドで唸りを上げる怒濤のエンディングまで。毒気のある果実を囓った瞬間、快楽の弛緩が身体中を浸して行くようなメロウ&ハードネス。ベイビー・コンスエロのひたすら伸びやかな歌声に涙、涙。

Marden Hill / Curtain (1988)

 スキャット、ラウンジ、映画音楽、ソフトロックと、今となっては懐古趣味への出発点であったようなelレーベル、マーデンヒルの88年作品。このイントロを聴いただけで、若葉の頃というよりも90~91年頃の宇田川町へ気持ちが戻って行ってしまう。エルならぬ、クルーエル・グランド・オーケストラがカヒミ・カリィをフィーチャーして録音した「ボンジュール・リーヌ」は引用と言うより、もはや姉妹作と言ってしまいたい。

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