てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年7月13日〜2012年7月27日分)

 ロックの名曲をオーケストラで演奏してみました、という企画はそれこそビートルズの時代から今に至るまであらゆる音源が残されています。それらの大半は(例えばLFO=ロンドン・フィルが演奏するもののように)クラシック・オケ・アレンジになることが常、ですが、オーケストラと言ってもそれだけじゃあありません。今回は「オーケストラPLAYSロックの名曲WITH風変わりなアレンジ」的なものを集めてみました。(2012年7月13日更新分/選・文=大久)


George Martin & His Orchestra / All My Loving (1964)

 ジョージ・マーティン自らがオーケストラの指揮を取り、ビートルズの楽曲をオーケストラで演奏した、という64年のアルバム「OFF THE BEATLE TRACK」は、ビートルズのアルバムほどは売れませんでしたがそれでもとても有名な一枚ですよね。カヴァー企画なのに、名曲・名演揃い、という作品なわけですが、それはジョージ・マーティンはビートルズの楽曲を世界一客観視できる音楽家だったから、ということも言えるのかもしれません。

Andrew Oldham Orchestra - You Better Move On (1965)

 ジョージ・マーティンと同じ(?)ことを、もう一方のイギリスのスター・バンド、ローリング・ストーンズもやっています。オーケストラは(ストーンズのプロデューサーだった)アンドリュー・ルーグ・オールダムですが、彼は音楽家というより純粋に企画屋/アイデアマンなので、直接演奏にタッチしていません。オーケストラの名がついていますが、オケに実態はなく、周辺のセッション・ミュージシャンによって録音されたこの楽曲でギターを弾いているのは、おそらくジミー・ペイジだと思われます。


Larry Page Orchestra / Light My Fire (1969)

 ラリー・ペイジは英国を代表するイージーリスニング・コンダクターですが、60年代にキンクスの楽曲集を発売し、ヒットしたことで知られると思います。その後ジャズ・ファンク・アルバムをリリースしたり、70年代にはディスコ・アルバムを発表して大ヒットさせたり(ブラック・ミュージック・ファンにはそちらの方が有名だと思われます)、と文字通り多岐にわたって活躍した人ですが、こちらは69年、ドアーズ「ハートに火をつけて」をカヴァーしたトラック。ラリー・ペイジ自身が設立したPAGE ONE LABELから発売されました。

Orchestre National de Jazz / Rain Song (2006)

 オーケストラといえばクラシックの管弦楽だけというわけでもありません。フランス国立ジャズ・オーケストラ(ONJ)は86年に結成、以降定期的に音楽監督を迎えて、ジャズ・オーケストラという分野を研究しているグループです。彼らが06年に発表したアルバムはなんと「ツェッペリン・カヴァー集」というアルバムで、こちらはその中から「RAIN SONG」のカヴァーです。ONJはこの後も「ロバート・ワイアット・カヴァー集」なんていう作品も発売。さすが「おフランス」は違うザマス。

OrKestr Percussion / Frame by Frame (2009)

2006年にフランスで結成、そのグループ名が示すように、スティール・ドラム、木琴、カウベル、ティンパニ、アフロ・パーカッション等で構成されるオーケストラ。現時点でアルバム・リリースはしていませんが、スタジオ録音音源はMY SPACEにて発表しています。そんな彼らは2009年に「キング・クリムゾンの名曲をカヴァーしまくる」というツアーを行なっています。こちらは再結成クリムゾン期の名曲「FRAME BY FRAME」のカヴァーです。やはり「おフランス」は違うザマス。




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 2012年上半期のカラオケ・ランキングは、1位AKB48「ヘビーローテーション」、2位が初音ミク「千本桜」、3位高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」という順位でした(6月11日JOYSOUND/UGAが発表)。「残テ」が17年も歌われ続けてることに驚きますが(笑)、それよりも初音ミクです。今更ではありますが、今回は2007年9月以降の日本の音楽シーンを代表する動画を並べてみました。なんだか懐かしささえ感じる曲もありますが、何が素晴らしいかと言えば、これらは全て「衝動」のみで作られた非商業作品だったということ。パンクですね。今聴いても新鮮さを失っていません。(2012年7月20日更新分/選・文=大久)


オワタP feat.初音ミク/トルコ行進曲 - オワタ\(^o^)/

初音ミクの得意ジャンルに「カヴァー曲」があります。DTMクリエイターが真っ先に思いつくシンプルな企画ではありますが、聞き慣れたあのメロディーにコンテンポラリーな歌詞/ストーリーとビジュアルを付けたらこんなに可愛らしいトラックが出来た、という素晴らしい一例です。VOCALOID関係では「IEVAN POLKKA」(註:初音ミクがいつもネギを持っている、という設定の元ネタにもなった、フィンランドのポルカ/民謡のカヴァー曲)に次いで有名なカヴァー・トラックでしょう。(2008年4月12日発表)

ピロリロP feat. 初音ミク/ピロリ菌のうた

「癒し系」も、もちろん初音ミクの得意技です。というわけでこんな歌も生まれています。歌詞を真面目に読むと結構オッカナイ曲ですが(笑)、このジャンルは圧倒的な支持を集め、2010年にはこの「ピロリ菌」を含むCD『ぼーかろいど みんなのうた』が発売されています。どこでどう火がついたのかは知りませんが、この宇宙怪獣のような白い着ぐるみを来た初音ミクは「ピロリミク」という名で親しまれ、現在キャラクターグッズ展開もされています。(2008年4月16日発表)

ラマーズP feat.初音ミク/ぽっぴっぽー

制作時はDTMの知識も見識もほとんどなかった、という作曲者のハンパない創作意欲、その歌詞の素晴らしさ、それから90年代日本アニメを彷彿とさせるPV映像の完成度の高さ。3DやCGというテクノロジーに過度に依存しない、日本アニメの王道を行くそのアティテュードに乾杯。最狂の破壊力を誇る、21世紀日本音楽シーンのリーサルウェポンです。この曲は初音ミク楽曲の中で最も初期に英語化された曲でもあります(LAライブでは日本語〜英語のメドレーで披露されました)。(2008年12月11日発表)

mikuru396 feat.初音ミク/melody...

「初音ミク」が発売されたのは2007年8月31日。わずかその3週間後にはあの「みくみくにしてあげる」が発表され、そして2ヶ月と経たずしてトランス系の代表曲「Melody…」が発表されています。以降VOCALOID文化は文字通りビッグバンとなり、光速をも越える勢いで(その人気とともに)音楽の振幅を広げています。とはいえ、そのシステムの性格上最も得意なジャンルが「ダンス・トラック」であることは過去も現在も変わりません。「Melody…」はその好例ですが、実はこの曲にはもうひとつ「初音ミク楽曲」の特徴があらわれています。それは自ら「初音ミクとは何か」をテーマに歌うことでした。(2007年10月27日発表)

en feat. 初音ミク/8bit Heaven

テクノ・ミュージックと「初音ミク」の相性は、それはもういいに決まっています。広島出身の女の子3人組が「ポリリズム」でブレイクしたのは2007年のことでしたが、VOCALOID「初音ミク」は偶然にも時を同じくして世間に登場しました。その瞬間に、AUTOTUNE使い、という新しいクラブ・ミュージックのスキルは「既に過去のもの」と化してしまったのです。「8bit Love」はある意味それを象徴する楽曲かもしれません。ちなみに「8ビット」とは、80年代のファミコンやゲームボーイに搭載された音声チップ「コモドール64」を指す言葉で、テクノの世界ではそのレトロな音色が再び脚光を浴びています。(2009年02月13日発表)

WhiteFlame(黒うさP) feat.初音ミク/千本桜

さて、冒頭申したようにどうやらカラオケという世界では大人気になっているらしい初音ミクのヒット曲「千本桜」です。カラオケをやらない当方でも、この曲がなぜウケるのかは判る気がします。典型的なコンテンポラリー・アニソンのエレメンツを盛り込み、(「サクラ大戦」以降すっかり市民権を得た)大正時代風の様式美で包まれたこのアップテンポ・ナンバーは、間違いなくアキバあたりでウケまうったんだろうな、と思われます。おそらく次はフランスとかで大ブームになる予感(笑)。(2011年9月17日発表)
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 シンコーミュージック刊「ディスコ!」は主に往年の「ディスコ黄金時代」の音楽を沢山掲載していますが、ディスコのスキルを生かした素晴らしい曲は今の時代もバンバン生まれています。もちろんここ日本でも及川光博「バラ色の人生」、深田恭子「イージーライダー」のような例からMISIA「NEVER GONNA CRY」、平山ミキ「PERFECT SUMMER TIME」のような例に至るまで多くの佳曲がありますが、今回は新しめのクラブ・ミュージック・アーティストによる「ディスコ・クラシック・カヴァー曲」を集めてみました。(2012年7月27日更新分/選・文=大久)


Ariana Grande / Last Dance

 93年生まれ、今もまだ10代のアリアナちゃんですが、13歳の頃からブロードウェイの舞台にたち、15歳の時にTV女優として大人気になったタレントさん。歌手活動をしてるわけではないようですが、彼女は自分のチャンネルをYOUTUBEに持っていて、恐るべきことに彼女はそこで歌をいくつか披露しています。こちらはそのひとつで、「ママが大好きな歌を歌ってみました」とか可愛らしいコメントとともにドナ・サマーの名曲をカヴァーしてます。

The Olivia Project / Have You Never Been Mellow

 オリヴィア・プロジェクトは一応実態のあるグループですが(本人が登場するPVもあります)、オリヴィア・ニュートン・ジョンの曲をカヴァーするだけのユニットなので、ほぼワン・プロジェクトといえると思います。この曲はゲーム機「ダンス・ダンス・レボリューション」のために作られたもので、日本中のゲーセンで大ヒットしたこともあり、町中でこのカヴァーが大音量で流れていたのも記憶に新しいところ。渋谷センター街の暗黒時代を象徴するような曲ですね(笑)。ちなみにオリヴィア・プロジェクトは日本のラジオ・チャートで3曲ものNo.1ソングを持っています。DDRすげえ。


 Satoru Shionoya feat. Harumi Tsuyuzaki / Brazilian Rhyme (Saltstrumental) (1999)

 ピアニストの塩谷哲(元オルケスタ・デ・ラルス)がSALTという名義で発表したEW&F「BRAZILIAN RHYME」のカヴァー。この曲はシングル発売にあたってリミックス・ヴァージョンが作られ、リミックスを担当したのはDEF MIX PRO.のサトシ・トミイエで、完璧なブラジリアン・ハウスに生まれ変わっています。ゲスト・ヴォーカルで参加しているのは(LYLICOこと)露崎春女ですが、こちらはそのリミックス版のインストMIXで、ゲーム機「BEATMANIA II DX」で使用され、有名になったトラック。


Sophie Ellis-Bextor / Take Me Home

 NYのSTUDIO 54の定番曲でもあった、シェールの79年の大ヒット曲「TAKE ME HOME」をカヴァーしてるのは、2001年にソロ・デビューしたソフィー・エリス・ベクスター嬢。当時「今最もセクシーなシンガー」と評された彼女ですが、この曲はイギリスで大ヒット。このプロモ・クリップ、オリジナルのシェールのPVと同じテーマで作られている、っていうのも面白いですよね。50sモードがバリバリのメイク&ヴォーグを披露するソフィーさんですが、いかにも「性格キツそう」と思わせるルックスもたまりません。

Mezzoforte / Garden Party (Sounds of Life Full Vocal Mix)

 メゾフォルテ。そう、あの英国ジャズ・ファンク・フュージョン・バンドのメゾフォルテです。シャカタクなんかと同時代に人気のあった彼ら、曲は82年の彼らの大ヒット曲、ですが、こちらは2000年のセルフ・カヴァー版で、しかも女性ヴォーカルをフルにフィーチャーして思い切りラテン・ハウスに生まれ変わってしまったヴァージョンです。「HORNY」の大ヒットで有名なMOUSSE TのPEPPERMINT JAMレーベルから発売されました。

Nuyorican Soul / Runaway

 最後は名曲中の名曲「RUNAWAY」の、ニューヨリカン・ソウル・ヴァージョンです(オリジナルはサルソウル・オーケストラ feat. ロレッタ・ハロウェイ)。クラブ・ミュージックの世界では「あまりにも有名な曲を堂々と紹介する」ことに嫌悪感を抱くタイプの人がいます(レアな曲ほど至高、という価値観てワケですね)が、当方は個人的にそういう価値観にシンパシーを感じません。むしろ「こんないい曲なのに、もし知らない人が1人でもいたらどうしよう?」とドキドキしてしまうタイプです。何百回聴いたかわかりませんが、今動画を通して改めて聴いても、やっぱりメチャいい曲です。

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