てりとりぃ放送局アーカイヴ(2012年9月14日〜2012年9月21日分)

 やっぱマックイーンといえばトライアンフを乱暴に駆って欲しいなあ、なんてことも考えるわけですが、それでも68年の映画『華麗なる賭け』は、彼にとっての代表作のひとつでもあるのも事実。そして同映画はミシェル・ルグランの美しい音楽でもよく知られる作品で、ノエル・ハリソンが歌う主題歌「風のささやき」はルグランの名前を知らない人でも聞いたことがある、という程の歴史的名曲ですよね。今回はその映画音楽のスタンダード「風のささやき」のバリエーションを集めてみました。(2012年9月14日更新分/選・文=大久)


Dorothy Ashby / The Windmills of Your Mind (1969)

 ジャズが精神性を帯び始めた60年代末、「ハープ奏者」という珍しいスタンスでありながらも、カデットというレーベルに見事なマッチングを見せたドロシー・アシュビー。69年のアルバム『DOROTHY'S HARP』で「風のささやき」をカヴァーしています。もちろんプロデュースはリチャード・エヴァンス。エレピはオデル・ブラウン。ファンキーです。そして美しいです。

Oscar Peterson Trio / The Windmills Of Your Mind (1970)

 ルグラン本人との交遊も知られる、ジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソンの名作『WALKING THE LINE』(70年)収録の、「風のささやき」のカヴァー。スリリングで激しさを加味した演奏なので、本家のイメージとは離れたものかもしれませんが、『華麗なる賭け』がサスペンス映画だ、と考えると、これはアリですよね。それにしてもドイツMPS、凄く音がいいですねえ(MPSはMOST PERECT SOUNDの頭文字から来てるそうなので、当然なんですが)。

Barbara Lewis / The Windmills of your Mind (1970)

 アトランティックR&Bのディーヴァとして有名なバーバラ・ルイスですが、こちらはスタックス・レーベルに移籍後に発表した、70年作『THE MANY GROOVES OF』収録の「風のささやき」のカヴァー。後にギャングスターがこのヴァージョンをサンプリングしたことで、ヒップホップ・ファンにも馴染みのあるトラック。スタックスにしては珍しい、ちょっと湿り気のあるドラムの音色が最高ですね。

Rigmor Gustafsson / The Windmills of your Mind (2006)

 スウェーデンの女性ジャズ・ヴォーカリスト、リーグモル・グスタフソン(とお読みするのだそうです)。現代の北欧ジャズのスターとなった彼女ですが、2006年にミシェル・ルグラン作品集『ON MY WAY TO YOU』を発表(発売はドイツのACTというレーベル)していますが、そこに収録された「風のささやき」のカヴァー。そして正統なジャズ・アレンジなのにファンキーなのも嬉しいところ。


Sting / Windmills of Your Mind (1999)

 最後は、1999年のリメイク版『華麗なる賭け』の主題歌となった、スティングのカヴァー・ヴァージョン。リメイク版のサントラは大半がビル・コンティによるインスト曲でしたが、それでもやはりこの曲は外すわけにはいかなかったようです。そりゃあそうですよね。スティングは2010年のミシェル・ルグラン音楽活動50周年記念コンサートにも出演し、「WHAT ARE YOU DOING FOR THE REST OF YOUR LIFE」を共演してもいます。


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 ミシェル・ルグラン特集、今回は彼の代表曲「THE SUMMER KNOWS」の聴き比べ、です。71年の映画『おもいでの夏/THE SUMMER OF '42』主題歌だなんて事は、もはやここに書く必要も無い程に有名ですが、トニー・ベネット、フランク.シナトラ、バーブラ・ストライザンド、他多くの歌唱でも知られるルグラン・スタンダードの筆頭に挙げられるこの名曲のバリエーションを、ちょっと珍しいアレンジものを中心に選んでみました。(2012年9月14日更新分/選・文=大久)


Enoch Light & The Light Brigade / The Summer Knows (1972)

 こちらは60〜70年代にLIGHT BRIGADEという自身のバンドを率いてポップ・インスト作品を大量にリリースしたイノック・ライトによるジャズ・ファンク・カヴァー。モンド〜ラウンジ系のファンには「宇宙を彷徨うバーバレラ」ジャケのムーグ・シンセサイザー作品『SPACED OUT』(73年)が有名ですね。また彼が運営していたプロジェクト3レーベルは、あのフリー・デザインを擁したことでも知られます。


Biddu Orchestra / The Summer of '42 (1975)

 75年、「THE SUMMER KNOWS」のディスコ・カヴァーが大ヒットを記録しました。ビドゥ・オーケストラ名義の作品ですが、インド出身、英国で活躍したアレンジャーのビドゥ氏は74年に作曲・アレンジした、カール・ダグラス「KUNG FU FIGHTING」の仕事でも有名でしょう(69年のザ・タイガースのロンドン録音曲「SMILE FOR ME」をプロデュースしたのも彼でした)。ビドゥ・オーケストラの出身者にはトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズがいて、その2人は後にバグルスを結成しています。


James Last / Summer of '42 (1976)

 「THE SUMMER KNOWS」ディスコ・カヴァーをもう1曲。ドイツ出身のアレンジャー&コンダクター、ジェイムス・ラストが76年に残したヴァージョン。60年代から一貫して「ハッピーでダンサブルな」イージーリスニング曲を大量生産している彼ですが、彼の作品はイギリスでは大人気で、全英で52枚ものヒット・アルバムを出しているのは、プレスリーと彼しかいない、という記録もあります。アストラッド・ジルベルトと共演盤を残していることで知っている方もいるかも。殆どカヴァーの手法はビドゥ版と同じですが、こちらはコーラス入りですね。


Michelle Oram / The Summer Knows - You Must Believe in Spring (2011)

 実はアーティストに関してほぼ資料がありません。NY周辺で、アマチュア・ベースで活動されている女性ヴォーカリスト、ミシェル・オラムさんが2011年にMP3フォーマットで発売したアルバムに収録されたルグラン・メドレー、というくらいしか判っていません(既にアマゾンでもMP3販売がストップしてる模様です)。クラギで「SUMMER KNOWS」を弾く動画を探してて見つけたのですが、後半「YOU MUST〜」のボサ・ジャズ・アレンジも素晴らしくて、この数日すっかりハマってます。


Michel Legrand / Un Eté 42 (2009)

 ラストに登場するのは、やはりご本人、ということにしてみました。有名な動画なのでご存知の方も多いと思いますが、2009年、仏TV番組「TANDEM」でのライヴ演奏。しかし、誰がどう見てもここでの演奏の主役は、ムッシュではなくマダムの方なわけです。美しいハープを奏でるのはルグラン夫人のカトリーヌ・ルグラン。動画後半では、御内儀のハープと御主人の歌、というデュエットも聴けます。YOUTUBEに残されたコメントを読んでるだけでニンマリしてしまう、そういう素敵な動画です。



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 ミシェル・ルグラン生誕80年記念コンサートをフィーチャーした『週刊てりとりぃ』。期待に胸膨らむ10月を前に、ここでは敢えてライヴでは聴くことの叶わない楽曲、アレンジ、カヴァー作品のいくつかをお聴き戴こう。耳慣れない作品もあろうが、これらもまた、世に類い希なる才人が歴史に残した音楽的遺産なのである。(2012年9月21日更新分/選・文=関根)


Michel Legrand / How To Save A Marriage And Ruin Your Life: The Overture (1968)

 急速調に転がり絡みつく管と各種鍵盤打楽器の調べ。変幻自在にアップダウンを繰り返し、表情を変えるリズム。『ルグラン・ジャズ』や『華麗なる賭け』の流れを汲んだルグラン・タッチの真骨頂を味わえる一曲。この作品を収録したサウンドトラックには、他にもレイ・コニフ・シンガーズが麗しいコーラスを披露するテーマソング含め聴き応え十分の佳曲がずらり並ぶ。DL版は既発ながら、なぜこの名盤がCD復刻されないのか。リイシュー・レーベルの奮起を期待したいところだ。


Michel Legrand / Disco Magic Concorde (1978)

 「シェルブールの雨傘」「風のささやき」「おもいでの夏」といった氏の代表作が流麗なディスコティックに乗って次々と歌われるミシェル・ルグラン・メドレー「ディスコ・マジック・コンコルド」。ルグラン自身がメドレーの大半で自慢の喉を披露している。聴きどころは何と言っても中間部で挿入される「双児姉妹の歌」。サヴァンナ・バンド直系の跳ねたリズム・アレンジはクラブ世代にこそ聴いて戴きたい。繰り返し歌われる「これからの人生」のフレーズも非常に印象的だ。


Merry Clayton / I'm A Lady (1978)

 日本でのみ公開されたジャック・ドゥミ作品、映画『ベルサイユのばら』。ミシェル・ルグランが全編の音楽を担当したこの映画のテ-マ曲をジーン・ペイジがディスコティックにリアレンジ、英詞がつけられ資生堂・春のCMイメージソングとして発表されたのがこの曲だ。これぞミシェル・ルグラン! といった万感胸に迫る泣きサビに胸が熱くなる。ソウルフルな歌唱はメリー・クレイトンによるもの。


Barbra Streisand / I Wish You Love (1966)

 シャンソン~ジャズ・ヴォーカルものの定番、シャルル・トレネ作「アイ・ウィッシュ・ユー・ラヴ」。カヴァー作品数あれど、ミシェル・ルグランがものしたこのヴァージョンほど痛烈なアレンジは他にない。静寂のオープニングからホーンが爆発的な唸りを上げサビに突入。グルーヴィーであるにもかかわらず安易な舞踊を拒むかのような高速6拍子で駆け抜ける本編。そしてまたスロウ~高速と目まぐるしく展開。これもまたルグラン・タッチを堪能できる一曲。


Steve McQueen & Faye Dunaway on "The Thomas Crown Affair" (1968)

 ミシェル・ルグランが全編のサウンドトラックを手がけた、映画『華麗なる賭け』。挿入歌「ヒズ・アイズ、ハー・アイズ」はルグラン本人の歌唱によるものだが、ここではそのインストゥルメンタル・ヴァージョンをお聴き戴きたい。チェスを終えたスティーヴ・マックイーンとフェイ・ダナウェイが交わす恍惚とした口づけ。燃えさかる二人の激情を表すかのようにカメラが周囲を回転、リズムは熱く淫らにスウィングし始める。誤解を恐れずに言うならば、これはもはや音楽映画の領域。


Michel Legrand on "Bande A Part" (1964)

 未だ音盤化の夢叶わないミシェル・ルグラン・サウンドトラック作品のひとつ、ジャン=リュック・ゴダール作、映画『はなればなれに』。劇中、不意に引用されるドゥミ=ルグラン作『シェルブールの雨傘』のテーマ曲も耳を惹くが、長尺かつ途中オフビートに展開する通称「マディソン・ダンス」のシーケンスに魅せられた方も多いはず。ファンキーなルグラン流R&Bに乗せて黙々とステップを踏むアンナ・カリーナ、クロード・ブラッスール、サミー・フレー。お気に入りの一幕が終わった後は、ホラ、いつものように貴女の瞼も閉じて行く。


Anita Kerr Singers / I'm Falling Love Again (1975)

 ルグランの代表作、映画『シェルブールの雨傘』サウンドトラックからのカヴァーと言えば「アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー」「ウォッチ・ホワット・ハプンズ」が定番だが、かのアニタ・カーは意外にも「シェ・タント・エリーズ」を自身のアルバムで取り上げた。ギイと病床のエリーゼ伯母とのダイアローグで歌われた厳かなあの楽曲が、アニタ自身の手によってグルーヴィーかつ高揚感のあるソフトロックへ見事な変貌を遂げている。リリック含め、米仏の解釈の違いを存分に楽しんで戴きたい。


Michael Jackson / Happy (Live 1976)

 映画『ビリー・ホリデイ物語 奇妙な果実』のテーマ曲としてルグランが提供した「ラヴ・テーマ」。スモーキー・ロビンソンによって歌詞がつけられ「ハッピー」と名を変えたこの楽曲をマイケル・ジャクソンがレコーディングしたのは72年、キッズ時代の甲高い声を維持していた14才の時のこと。が、ここではあえて変声期を越えたばかり、振り絞るようにして高音域の発声に挑む76年のマイケルの姿を見て戴きたい。身を投げ打つようにメロディーに心酔、躍動するマイケル。観客とのささやかなコール&レスポンスにも胸打たれる。ミシェル・ミーツ・マイケル。「音楽」そのものだけで通じ合う夢のコラボレイト。


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