てりとりぃ放送曲アーカイヴ(2013年1月25日〜2013年2月8日)

 幼少の時分から、東映の「ヒーロー大集合」もの、東宝の「怪獣大集合」ものが大のお気に入り。そして、ことポップ・ミュージックの範疇においても「二大スター、夢の共演」といった企画には今もって特段の興味をそそられてしまう。有り体な企画ものゆえ、それらは必ずしも名作、名演とはいえないものに仕上がってしまう訳だが、それでもなお、「共演」しているという事実だけで何度も聴き直してしまう。良い部分を少しでも抽出しようとしてしまう。豪華共演ならではの「妙」と言おうか。ぜひ皆様も、耳をそばだて、何度もリピートしてそれを楽しんで戴きたい。(2013年1月25日更新分/選・文=関根)


Frankie Valli & the 4 Seasons - Beach Boys / East meets West (1984)

 犬猿の仲と言われた両グループ唯一の共演作。マイク・ラヴとフランキー・ヴァリが交互にヴォーカルを担当、随所に両グループのハーモニーが折り重なるという楽曲構成となっている。オーラスにはブライアン・ウィルソンのパートまで用意されておりさすがに涙腺も緩むが、発表年の時勢をかってアレンジが完全に80'sのそれになっているのが残念なところ。ボブ・クリュー=ボブ・ゴーディオ作品ながら楽曲のひねりも今ひとつだ。「ドント・ウォーリー・ベイビー」や「オーパス 17」のアレンジを思い浮かべながら、この曲のあるべき姿を何度夢想したことか。いっそこの作品のヴォーカルトラックのみを使用した別ヴァージョンを山下達郎氏に制作して戴きたい、と、これまた夢想。


Brian Wilson / What Love Can Do (2007)

 米・ディスカウント・ストア、ターゲットから発売された『ニュー・ミュージック・フロム・アン・オールド・フレンド』に収録された、バート・バカラック&ブライアン・ウィルソン、驚きの共作曲。どちらがどのパートを担当したのかは定かではないが、ABメロ~サビにブライアン。サビ直前とサビ終結部にAOR期のバカラックを感じるのだが、いかがだろうか。ブライアンのヴォーカルは何かを突き抜けたような艶と伸びがあり、楽曲全体の完成度も感動的なほど高レヴェルだ。

Michael Franks / Never Say Die (1983)

 ジャジーなAOR~ソフト&メロウの二大巨頭と言えば、マイケル・フランクス、ケニー・ランキンの名を即座に挙げる方は多いはず。そんな二人がマイケル・フランクスのアルバム『パッション・フルーツ』収録の2作品で共演していることは意外なほど知られていない。もっとも、ここでのケニー・ランキンは完全にバックヴォーカルに徹しており、クレジットを見なければそれと気づけないのも無理からぬ事実ではある。──以上を踏まえ、耳をそばだて、あるいはヘッドフォンでこの楽曲をじっくりと聴いて戴きたい。声質が似ていることから判別は容易ではないが、Aメロのカウンターヴォーカルがケニー・ランキン、そして後半の大サビでは二人の見事なハモりを聴き取ることができるはずだ。


Ivan Lins y Luis Alberto Spinetta / Muchacha Ojos de Papel (1984)

 中南米音楽を日常的に親しむようになった今、イヴァン・リンスとスピネッタが共演していたという事実を知った時には、特段の驚きがあった。ブエノスアイレスはルナパークで開催されたこのライヴ。イヴァンはスピネッタが69年、アルメンドラ時代にものしたヒット・チューンを共に歌唱。終盤に向かうにつれ、観客の興奮が高まって行く様子が存分に伝わってくる。鳴り止まない拍手、怒濤のように湧き上がる人々の合唱。ポルテーニョのみならず、これが歴史的名演であることは誰の耳にも明らかだ。

Lio & France Gall / Be My Baby(1984)

60年代イエ・イエを先導したフランス・ギャルと80年代フレンチ・ニューウェイヴの立役者リオのコラボレイト映像。新旧のフレンチ・アイドルが王道の60's・ガール・ポップ作品をカヴァーするという、これは正に企画ものの極み。リオはこの時22歳、デビューから4年目と油の乗った時期。一方のフランス・ギャルは36歳、夫ミシェル・ベルジェ・プロデュースの下、コンテンポラリーなポップ~ロック作品を精力的に発表し続けていた時代にあたる。往年のフランス・ギャル特有の歌声はさすがに影を潜めてしまったが、ここでは活きのいい後輩と楽しそうに踊る彼女の姿を素直に楽しもう。
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 熱心な「てりとりぃ」読者であれば、ご記憶の方もいるかもしれません。ホール&オーツでお馴染みのダリル・ホールさんは、2007年からWEB TVシリーズ「ダリルズ・ハウス」を月イチで(毎月中頃に)放送していて、毎回ゲストを招いて素敵なセッションを披露しています。今も変わらぬ「ブルーアイド・ソウル」のトップ・シンガーであることは既にご承知かと思いますが、今回はその彼の番組の中からとても興味深いセッションをセレクトしてみました。(2013年2月`日更新分/選・文=大久)


Rumer and Daryl Hall / I Can't Go For That (Aug 15 2012)

ゲストにルーマー嬢を迎えての、H&Oの大ヒット曲のカヴァー。「ダリルズ・ハウス」はビッグネーム、というよりは「今人気/実力急上昇中」みたいなゲストが迎えられることが多いのですが、それにしてもソウルフルなダリル・ホールと、ストレートにしっとりとメロディーを抑えるルーマー嬢のマッチングがとてもお洒落スね。リズムボックスのビートにアコースティックなアンプラグド・アレンジも新鮮です。

Rumer and Daryl Hall / Be Thankful For What You've Got (Aug 15 2012)

コチラも同じくルーマー嬢がゲスト出演した時、エピソード57のセッションにて。なんとウィリアム・デヴォーンの必殺の名曲をこの2人がカヴァー。これぞニュー・ソウル、というアレンジも最高ですが、この2人(もちろんホワイトのシンガー)がこういうアレンジでプレイするというだけで感動します。誰か一度、ダリル・ホールにソウルのコンピ作らせて上げて下さい。絶対面白いと思うんだけどなー。

Dave Stewart and Daryl Hall / Here Comes The Rain Again (Apr 15 2011)

ゲストに元ユーリズミックスのデイヴ・スチュワートを迎えて行なわれたセッション。ダリル・ホールのピアノとデイヴのアコギだけで披露される、ユーリズミックスのヒット曲「HERE COMES THE RAIN AGAIN」。全く違った曲に生まれ変わっていることも興味深いですが、ダリル・ホールの歌の上手さにもう土下座するしかありません。デイヴ・スチュワートがどう思ったかは判りませんが(笑)。

Diane Birch & Daryl Hall / Day Dreaming (Oct 15 2009)

さあ、またソウル・クラシックのカヴァーです。ゲスト・シンガーは09年デビュー、若手の美女SSWとしても話題ですが、10年に発表したカヴァー・アルバム(面白いことに、全部ゴリゴリの英ニュー・ウェイヴの曲のカヴァー集でした)も話題となったダイアン・バーチ嬢。曲はもちろん、アレサ・フランクリンでお馴染みのソウル・クラシック。

Smokey Robinson & Daryl Hall / Don't Know Why (Aug 15 2009)

最後は御大スモーキー・ロビンソンがゲスト出演した回のセッションから。曲は(近年のスモーキーのステージ定番曲でもある)ノラ・ジョーンズ「DON'T KNOW WHY」のカヴァーです。ダリル・ホールにとってスモーキーは神様みたいな存在のはずですが、共にベテランとなった現在、こういう新しい曲を歌うというのも興味深いですね。ちなみに「ダリルズ・ハウス」はショウ・アーカイヴとして過去放送されたものもほぼ全部無料で視聴可能です。コチラの公式HPからどうぞ。
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 ヴァレンタイン・ウィークです。というわけで今回の「放送局」ではジャズの名曲として名高い「MY FUNNY VALENTINE」の聴き比べをやってみようと思います。1937年に上演されたミュージカル『BABES IN ARMES』は「THE LADY IS A TRAMP」という有名曲を生み出したことでも知られますが、「MY FUNNY〜」も同作のためにロジャース&ハート・コンビによって生みだされた曲です。発表当時、殆ど話題にすらならなかったそうですが、その後多くのカヴァーによって定着。現在では800以上のアーティストにより1500以上のヴァージョンが残されているという同曲のヴァリエーションを並べてみました。(2013年2月8日更新分/選・文=大久)


Frank Sinatra / My Funny Valentine (1954)

 何と言ってもこの曲を一大スタンダードにのし上げたのはフランク・シナトラの歌唱です。同曲を収録した10インチ『SONG FOR YOUNG LOVERS』は、彼にとって初めての(78回転ではない)「アルバム」でした。動画はシナトラ公式チャンネルによってアップされたもの。太っ腹ですね。シナトラがクラブ歌手役で出演した57年の映画『PAL JOEY(夜の豹)』では、キム・ノヴァクによって同曲が歌われてもいます。

Chet Baker / My Funny Valentine (Live 1959)

 ジャズ・ナンバーとしての「MY FUNNY〜」は、64年のマイルス・デイヴィス版、さらにそれと並んで必聴・必携とされるチェット・ベイカー『SINGS』収録版を外すわけにはいきません。動画は59年11月8日、イタリアに渡ったチェットがトリノで披露した「MY FUNNY〜」ですが、恐ろしくカッコイイです。喧嘩で付けた傷を隠すグラサンも最高。喧嘩で折られたスキッ歯はさすがに隠せていませんが(笑)。バックバンドのリーダーはバリトン・サックスのラース・ガリン、ベースを担当してるのは(人気ギタリストでもある)フランコ・チェリ。

Stéphane Grappelli & Yehudi Menuhin / My Funny Valentine (1978)

 こちらはちょっとだけ変わり種アレンジの「MY FUNNY〜」。78年にジャズ・ヴァイリニストのステファン・グラッペリが、ユダヤ系のクラシック・ヴァイオリニスト、イェフディ(ユーディ)・メニューインとのジョイント・アルバム『TEA FOR TWO』で披露したヴァージョン。余談ですが、メニューインと言えば『少年とヴァイオリン』(滝一平・著/宇野亜喜良・絵)を思い出された方もいるのでは。


Chris Botti feat. Sting / My Funny Valentine (Live 2005)

 イケメン・トランペッターとして現在大人気のクリス・ボッティによる05年のライヴ。彼が95年にソロ・デビューする以前はスティングのバンドに参加していたという経緯からか、こちらではそのスティングがゲストで登場しています。動画冒頭で女性をナンパしてますが、彼女は女優のトゥルーディー・スタイラー、スティングの奥さんです。ワシの嫁に何しとんじゃコラ、とばかりに遅れてスティングが登場、会場も大ウケなわけですが、歌い出したらその歌詞の内容で更に爆笑を誘う、というオモシロ動画でもあります。

Roland Dyens / My Funny Valentine (2008)

 最後はオマケ。クラシック・ギター奏者でありながら、ジャズや即興演奏がお得意、というちょっと風変わりなフランスのギタリスト、ローラン・ディアンス。彼が作曲した「TANGO EN SKAI」はトヨタのTVCFで村治佳織がカヴァーを披露(02年)したことでも馴染みがあるかも知れません。こちらはそのディアンスが教則DVDにて披露した「MY FUNNY~」のクラギ・ヴァージョンです。


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