2013年3月1日(金)

ヒトコト劇場 #19
[桜井順×古川タク]








ブラジル流グラフィティアート(1) チチフリーク

 2012年、秋。北青山にある駐日ブラジル大使館の外壁は、ポップでカラフルな路上グラフィティ(ブラジルではグラフィッチと呼ばれる)で彩られていた。10月下旬から11月上旬にかけて、ブラジルのふたりのアーティストが同大使館外壁に作品を描き、連日の制作過程が「東京デザイナーズウィーク2012」会場

で、ユーストリームによる中継が行われたのだ。このインスタレーション作品を手掛けたふたりのアーティスト、チチフリークとプレストのインタヴューを2週に渡ってお届けする。
 今回、ご紹介するのはチチフリーク。出身はサンパウロだが、ロンドン、パリ、ニューヨークをはじめ国際的に活躍するグラフィティ

アーティストだ。日系3世でもある彼は、現在、来日していて大阪に滞在中。2011年の11月には石巻の仮設住宅に赴き、仮設団地の外壁でも作品を制作している。「災害に遭われて大変なのにもかかわらず皆さんがとても親切であることにまず、感動しました。お金には変えられない貴重な体験でした。今年、また戻る予定です」。
 チチのスタイルは、アーティスト然としたおしつけがましいスタンスでは決してない。花が見たいという声に応えて花を描いたり、ワークショップを実施するなど、住民とのコミュニケーションに基づいた制作は、被災地に笑顔をもたらした。
 原則的にはブラジルでもグラフィティは合法ではない。しかし街の人からアートと認められれば容認されることも少なくないし、企

業やショップから作品の制作を依頼されることもある。とりわけサンパウロ市は、自由にグラフィティを描いていい場所を設定したり、高架下を使ってグラフィティの作品展示を行ったりと、社会とグラフィティとの共存度が高い街だという。「夜中に限られた時間の中

でこっそり書くのではなく、昼間にじっくり時間をかけて、堂々と街をキャンバスにして表現をすることができます。そのような環境もあって、サンパウロ市では街の人々と共存する〝アート〟としてのグラフィティが育ったのだと思います」。
 ヒップホップ文化からの

影響もあるにはあるが、そんな環境を受けて、作家の個性を生かした自由な作風のグラフィティが発展したのも、サンパウロ流といえそうだ。13歳からマウリシオ・ヂ・ソウザ(2012年4月20日号参照)のスタジオで漫画を描き、マーヴェル・コミックやディズニーなどでも働いてきたチチの個性的な作風は、漫画からの影響も大きい。「『鉄腕アトム』など手塚治虫の漫画も大好きです。マウリシオのスタジオでお会いしたこともありますよ!」。
 他国の文化を吸収しつつも、独自の発想でまったくオリジナルのスタイルを作り上げることが得意なブラジル。グラフィティの世界においても、個々のアーティストが各々オリジナリティを競いながら、人々とコミュニケートしている。
(麻生雅人=文筆業)



大人の遠足〜昼の川越編

 濱田高志さんから、昼にお寿司食べに行こう、という誘いがあった。昼ご飯で寿司屋に行くのは初めてかもしれない。メンバーはいつもの、鈴木啓之さん、星健一さん、長井裕さん、長井雅子さん、そして濱田さんとぼく。本川越駅から小江戸方面へと向かう。濱田さんが、﹁ああ、ここ、ここ﹂と言う。そこにあった

のはカフェ、エレバートだった。なんだ、寿司は中止になったのか。少し残念に思っていると、濱田さんはその店の脇の細い小道へ入っていった。ここに店があったのか。小民家を改装した店。白い暖簾には『風凛』と書いてある。1階はカウンター席、ぼくたちは2階へ案内された。落ち着いた雰囲気のテーブル席。お昼

のメニューから、6人とも小江戸コースを頼んだ。そこから、にぎり、ちらし、あなご丼を選べるのだが、全員がにぎりを選んだ。飲み物を見ていると、見たことのないメニュー。そこには、葉とらずりんご、と書いてある。頭に浮かんだのはモヒートのような飲み物。それとも葉ごとミキサーにかけた緑色の飲み物か。それを頼んでみる。やってきたのは普通の格好をしたりんごジュースだった。さっぱりとした甘みのおいしいりんごジュース。
 さて、食べ物のほうは、先付、前菜、刺身、蒸物、鰆の焼物、寿司、御椀、最後にアイスクリームまで付く。もずく、山芋の寒天寄せ、梅の茶碗蒸し、小ぶりの寿司、とても贅沢な昼ご飯だった。食事の最中の話はザッハトルテのことだった。スターバックスのザッ

ハトルテが非常においしい、ということ。ザッハ、という部分が声に出して言いたくなるほど気持ちがいい、ということ。しかしぼくはザッハトルテを食べたことがなかった。見たこともない。浮かぶのはクラシック音楽のような高貴な食べ物。
 贅沢な食事をして、ザッハトルテの話のあとは、へえ、と驚くような話が次々

と出てくる。ここに書いていいのかわからない。店内ではずっとハープの音楽がポロポロと流れる。窓はすべて飾りガラスで、昼の陽のせいか、白くぼんやりと曇って光っていた。雲の上にいるような、夢のような、とても心地いい時間だった。
 店の名前は『小江戸会席 風凛』、こんなに贅沢をして昼の小江戸コースは28

00円と、安かった。暖簾をくぐり、外に出ると、昼の川越は空が高くて気持ちがいい。電信柱が地面に潜っているぶん空が高い。
 気になって気になって、後日、新宿のスターバックスに入った。我慢できなかった。混んだ店内の端っこで、一人、ザッハトルテをほおばった。それは非常においしく、想像していたような、高貴なデザートではなかった。これは大人のエンゼルチョコパイだ。
(馬場正道=渉猟家)



『少年サンデー版 スリル博士 限定BOX』
著者:手塚治虫
発行:小学館クリエイティブ 発売:小学館
定価:本体8,500円+税 好評発売中


●『0マン』『キャプテンKen』『白いパイロット』『勇者ダン』に引き続き『少年サンデー』連載の手塚治虫の代表作のひとつ『スリル博士』(1959年)を雑誌掲載時のままのスタイルで完全復刻。
●『週刊少年サンデー』創刊号から連載された『スリル博士』はミステリー好きの「スリル医院」の院長・スリル博士(ヒゲオヤジ)と息子のケン太、愛犬のジップが様々な難事件に挑む9話のシリーズ。連載時のカラーページも含めて大判のB5サイズで再現。単行本未収録の最終話『ケン太死の島へ行く』も含め完全収録。
●付録として1961年から62年にかけ小学館の学年誌『小学五年生』〜『小学六年生』に連載された冒険マンガ『ボンゴ』を収録。南米を舞台にインカの血をひく少年・ボンゴが活躍。学年誌連載の特色であった美しいカラーページをすべて再現。
●解説は作家の二階堂黎人。

●問合せ:小学館クリエイティブ(担当:日下)03-3288-1354