2013年3月29日(金)

TV AGEシリーズ最新作は番組主題歌を中心とした作品集
『俺たちのテレビうた 70's』好評発売中

ふと口をついて出る歌というのがありませんか? 口ずさむ、というより口をついて出る歌。お皿を洗っている時、ちょっとコンビニまで夜中に出かけた時、などなど…どうってことない瞬間に「つい」歌ってしまうフレーズ。それはおそらく、子供の頃に覚えた歌のワンフ

レーズではないか。
 例えばその歌が「ビートルズの『ミッシェル』です」とか「シュプリームスだな」と言うならカッコいいのだが、昭和の日本男児は、なかなかそういうワケにはいかない。
 3月20日にTVエイジ・シリーズの一環としてリリースされた『俺たちのテレ

ビうた 70S』は、70年代にワーナー・パイオニア(当時)から発売されたテレビ番組の主題歌&挿入歌を集めたコンピレーション盤。「俺たち」というカンムリが付いている通り、まさに70年代に帰宅部だったテレビッ子少年なら、もう口をついて出まくりのナンバー揃いだ。「あのドラマ、観てたよな!?」「観た観た!!」「主題歌、どんなのだっけ?」なんていう同世代の飲み屋トークをそのままパッケージしたかのような秀逸な監修は「てりとりぃ」でもおなじみのアーカイヴァー、鈴木啓之氏。
 冒頭を飾るのは日本テレビ『われら青春!』の主題歌「帰らざる日のために」。つい青い三角定規と間違えがちですが、歌っているのはいずみたくシンガーズ。同じく日テレ『俺たちの朝』でヌケ役を演じた秋野太作

が歌う同番組の挿入歌「ふるさとへお帰り」のフォーク歌謡に続いては、子門真人がブルース・リーばりに絶叫する『闘え!ドラゴン』の同名主題歌。スポ根アニメから青春ドラマにバラエティ番組まで、しかも民放各局を横断した、1曲ごとに丸っきりタイプの違うナンバーが次々に登場するカオスな選曲で、倉田保昭の次が桂木文などという流れはここでしかあり得ない。まるで70年代の新聞のラ・テ欄を見ているかのような楽しさだ。
 NETの『みごろ!たべごろ!笑いごろ!!』からは小松政夫ナンバーが3曲も。「デンセンマンの電線音頭」はかの有名な前口上までしっかり入って、35年ぶりにあの振り付けを思い出した。「哀愁の一丁がみ小唄」ではキャンディーズの雄姿が脳裏に浮かぶ。アンタがニ

クイッ!「しらけ鳥音頭」も含め、小松の親分さんの名人芸をたっぷりどうぞ。あぁねえ…。
 レアな音源は日テレ『まんがジョッキー』の主題歌&挿入歌、内田裕也&1815ロックンロールバンドによる「マンジョキロックンロール」と「ジョキ安ブギ」。前者はのちに「ホタテのロックンロール」として裕也さんの弟分・安岡力也のカヴァーで日の目を見た名曲。どちらもアウトキャストの水谷公生がギター、後者では井上大輔のサックスも入るなど、GS人脈のバックも嬉しい。
 こういった楽曲は、当時レコードを買った人は意外に少ないハズ。毎週毎週、同じ時間帯に流れているので、レコードで再現せずとも脳内レコーダーに完全に取り込まれているから。そう、未だにふっと口をつい

て出るのは、この頃のテレビで刷り込まれたナンバーじゃないだろうか。「まいったなあ、イヤだなあ、俺、ほとんど歌えるよ…」とうれし恥ずかしい気持ちになるハズ。
 ああ、なんという70年代懐かし地獄よ。『侍ジャイアンツ』の主題歌なんて、聴く前から「ズンタタタ、ズンタッタ…」って、絶対歌っちゃうよ!
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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■俺たちこれを見て大きくなった。お茶の間で口ずさんだ、70年代のテレビの名曲たちが甦る!■TVエイジ・シリーズ/ワーナー第一弾作品『俺たちのテレビうた 70S』全21曲/3月20日発売/2500円(税込み)/発売元:ワーナーミュージック・ジャパン/品番:WPCL11355



グレッチェン・パーラト@Blue Note Tokyo

 最近、新感覚派とカテゴライズされているジャズの女性ボーカルを好んで聴いている。ここ数年話題になっているソニア・キャット=ベロ、ジャネット・リンドストローム、そして、グレッチェン・パーラトである。深夜、ボリュームを低めにかけ椅子にもたれていると心地よい陶酔感に襲われる。毎晩のように聴いて

いると、彼女らのアルバムにはいくつかの共通点がある事に気が付いた。それは、まず美人である事。「ジャケ買いしたんでしょ」と誰かに怒られそうなほど、クール・ビューティなジャケ写である。そして、シンガーソングライターである事。正に自分の世界感を体現しているヴォーカリスト達である。最後に、コズミック

な色合いを帯びている楽曲が多いという事だ。アレンジでフェンダー・ローズの独特の音色を上手く使い、心地よい浮遊感を創り出している。ソニアの「トイ・バルーンズ」やジャネットの「アティチュード&オービット・コントロール」、グレッチェンの「ザ・ロスト・アンド・ファウンド」を聞くと1曲目から、その世界が堪能できる。
 そんな中で、昨年見逃したグレッチェン・パーラトのライブがブルーノート東京であると聞き、早速、赴いた。オープニングは、イントロのベースが印象的な2枚目のアルバム『イン・ア・ドリーム』から「ウィズイン・ミー」。彼女が登場するまで、ドラマ―とピアノも加えたインタープレイもあり、一瞬にしてNYのライブハウスにトリップする。それもそのはず、今

回のサポート・メンバーはサード・アルバムにも参加しているテイラー・アイグスティ(キーボード)と前回も来日したジャスティン・ブラウン(ドラムス)、そして、今回、初参加のバーニス・トラヴィス(ベース)で、NYを拠点とする猛者達だ。セカンド・アルバムから数曲演奏した後、

サード・アルバム『ザ・ロスト・アンド・ファウンド』の「ウインター・ウインド」のリリカルなピアノのイントロが始まった途端、完全に魂を持って行かれた。
 彼女の魅力の一つは、その声である。その声量を抑えたウィスパー・ヴォイスは演奏との一体感を生み、独特の心地よい空間を創り出している。その声に、才人ロバート・グラスパーも魅かれ、プロデュースを申し出たのではあるまいか。特に、「ハウ・ウイー・ラブ」の様なスキャットが使

われる楽曲でその本領が発揮される。
 そして、今回ライブを見て初めて分かったのは、彼女はパーカッションが非常に巧いということだ。サード・アルバム収録のパウリーニョ・ダ・ヴィオラのカヴァー「アロ・アロ」はボーカルとパーカッションだけの曲だが、まさか全て彼女自身による演奏とは思わなかった。
 どうやら、今夜からは彼女のアルバムが毎晩ヘビープレイになりそうである。
(星 健一=会社員)
Photo : Tsuneo Koga



大竹伸朗「焼憶」展
INAX ライブミュージアム「世界のタイル博物館」

 名古屋から電車で約30分、愛知県常滑市は日本六古窯の一つ常滑窯として知られる焼き物の里。土管や焼酎瓶が埋め込まれた坂道などを散策する人で週末はにぎわう。観光用に整備された場所だけでなく、生活路や家屋にも焼き物で栄えた町の痕跡があり、昭和の面影が残る場所だ。映画「20世紀少年」のロケ地にもなっている。
 その常滑にあるINAX ライブミュージアム「世界のタイル博物館」で、大

竹伸朗さんの「焼憶」(やきおく)展が6月9日まで開催中だ。同ミュージアムと大竹さんの関係は、2009年に完成した香川県直島の公衆浴場「直島銭湯 I♥ 湯」のために海女をモチーフにした手描きタイルの壁画や絵付け陶器を制作したことに始まる。
 今回発表されたのは、転写タイルを使用した巨大な本型作品。高さ2・2メートル×幅3・3メートル×奥行2・4メートル、重さは1・4tを超え、使用した

タイルの総数はなんと2239枚にものぼる。本の背表紙にあたる部分は、ニューシャネルのロゴが浮かび上がる金の便器とラフスケッチの転写タイル。表紙にあたる部分はこれまで制作された作品の部分や印刷物、土台の上部は日本各地を回り風光明媚な風景とは対局な情景をテーマに描いた「ぬりどき日本列島」シリーズ、側面は市内の工場で撮影した写真の転写タイルでそれぞれ構成。また大竹さんの略歴や最近の活動の

詳細、会場へ誘導するサインまで転写タイルを使用するという懲ったつくり。
 本展タイトル「焼億(やきおく)」は大竹さんの造語だが、テーマを決めるにあたり「記憶に焼き付ける」という言葉が浮かび、「記憶」と「焼く」ということが核になると確信したという。これまでの作品や、制作メモ、写真といった自身の過去の「記憶」が、まさにタイルに「焼き付け」られている。「本」という形態は、役目を終えた試作品

の陶板をスタッフに見せられたとき、本のページ部分と瞬時につながり生まれた。
 大竹さんは「この作品は自分だけでつくられたものではない」と制作を振り返る。転写の技術、またそれを貼付ける技術、そしてこの巨大で重量のある作品の躯体をどうつくるか。それぞれの技が融合して完成したものだからだ。奇しくも「ぬりどき日本列島」という日本をテーマにした作品を中心に据えた新作は、日本の細やかな技術に支えら

れて完成した。
 昨夏はドイツドクメンタに参加、年末年始はソウルで個展と大型展示が続いていた大竹さんだが、2月に始まった本展以降も今夏は大きな展示が複数ある。3月20日から春会期が始まった瀬戸内国際芸術祭では新作『めこん/女根』を発表。同芸術祭夏会期に合わせて、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、高松市美術館で個展される。こちらも見逃せない。
(吉田宏子=ハモニカブックス発行人)
焼憶(やきおく)展 会場:INAX ライブミュージアム(LIXILグループ)世界のタイル博物館 会期:開催中〜6月9日(日)/時間:10:00〜17:00(入館は〜16:30)/休館:水(祝なら木)/入館料:大人600円ほか(ライブミュージアム内共通)
今春〜夏開催の大竹伸朗展 ●瀬戸内国際芸術祭 会期:春3月20日(水・祝)〜4月21日/夏7月20日(土)〜9月1日(日)/秋10月5日(土)〜11月4日(月) ●女木島:休校中の小学校で新作「女根/めこん」発表 ●直島:家プロジェクト「はいしゃ」舌上夢 ボッコン覗/直島銭湯「I♥湯」 ●丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 会期:7月13日(土)〜11月4日(月・祝) ●高松市美術館 会期:7月17日(水)〜9月1日(日)