てりとりぃ放送曲アーカイヴ(2013年3月8日〜2013年3月22日)

 生前の本人と親交のあった本誌編集長・濱田氏を差し置いてこれをやるのは多少心苦しかったりもしますが、今回は映画音楽の巨匠ジョン・バリー(1933-2011)の特集です。しかし、今回ここでご紹介するのは、彼がまだ「映画音楽の巨匠」になる前のものばかり。そういえば昔、初期ビートルズを指して「首から便器をぶら下げたような下品なR&Rバンド」と形容した評論家がいましたが、ジョン・バリーも初期はだいたいそんなカンジ(笑)です。イケイケのロケンロー楽曲を中心に集めてみました。(2013年3月8日更新分/選・文=大久)


John Barry Seven / You've Got A Way - Every Which Way (1957)

 なんと、ジョン・バリーがロカビリーを歌ってます。上手いスねえ。そしてイケメンです。イカシてます。1957年、バリー24歳の時の映像で、この年ジョン・バリー・セヴンというバンドでデビューしているので、新人、ということになりますね。この時期のメンバーは1年程でバラバラになり、翌58年には(数はそのままながら)バンドのメンバーは一新されています。

Roy Young with The John Barry Seven - She Said Yeah (1959)

 ジョン・バリー・セヴンは59年から、イギリスBBCの音楽番組『DRUMBEAT』で専任バンドとして出演・演奏をしています(他にも、ボブ・ミラー率いるミラーメン、ダスティー・スプリングフィールドが参加していたラナ・シスターズ等もレギュラー出演してました)。こちらは同年、歌手ロイ・ヤングのバックでJB7が演奏した楽曲で、シングル発売された音源でもあります。

The John Barry Seven / Beat Girl (1960)

 50年代以降の「アングリー・ヤング・メン」を描いた映画のひとつ、『BEAT GIRL』の音楽を、ジョン・バリーは担当しています。これが彼にとって初めての映画音楽だったそうです。簡単に言えばイキガったオネエチャンが主役の不良映画で、映画は正直クソなわけですが、音楽は強烈です。ギタリスト、ヴィック・フリックの過激なリフにのったスリリングなテーマ曲は、アダム・フェイスが歌うヴォーカル版もあります。

Adam Faith & John Barry Seven / Made You (1960)

 アダム・フェイスはジョン・バリー・セヴンとのセットで売り出しが計られたイケメンのアイドル俳優兼シンガーで、『BEAT GIRL』にも出演、エディー・コクランの影響丸出しのR&Rを披露しています。彼がJB7との共演で発表した「POOR ME」(60年/全英NO.1)以降は、よりソフィスティケイトされたポップ・シンガーとなりましたが、ジョン・バリーが、オーケストラヒットやピチカート・リフを多用するようになったのもこの頃です。

John Barry Seven / Hit And Miss (1960)

 JB7自身の最初のヒット曲は、アダム・フェイス「POOR ME」をそのままインストにしたような「HIT OR MISS」(全英10位)でした。正式にはJB7の7人と、オケのメンバー4人との演奏、という意味で、アーティスト・クレジットは「JOHN BARRY 7 + 4」という名義でしたが。ここでも主役はヴィック・フリックのギター・リフでした。その後グループは62年にあの有名な「JAMES BOND THEME」を生み出し、以降は音楽性も活動形態も一変することになります。

Serge Gainsbourg / Ballade de Melody Nelson (1971)

 最後にオマケの1曲。キャリア的に大成功を謳歌した60年代のジョン・バリーではありますが、60年代に彼のもとを離れた人が2人います。女優ジェーン・バーキン(68年に離婚)と、JB7のステージリーダーで「JAMES BOND」でもギターを弾いたヴィック・フリック(64年脱退)です。ヴィック・フリックはその後売れっ子セッションマンになり、また自身も多くのTV/映画用音楽、ディスコ音楽等を制作したりしてますが、何の因果かこの2人は71年セルジュ・ゲンズブール「メロディ・ネルソンのバラード」で共演してるんですよね。…世界狭すぎ。

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 デヴィッド・ボウイ、そしてグラム・ロックというジャンルのパブリック・イメージを決定づけた名曲のひとつに「STARMAN」(72年)があります。どこまでもセンチで、どこまでもポップ、そしてどこまでもスペイシーな名曲、そのカヴァー聴き比べをやろうと思うのですが、実はこの曲は英米において(他のボウイの作品に比べ)あまり有名な曲ではありません。なのに、なぜかヨーロッパと日本では飛び抜けて人気が高い、という変わったキャラを持った曲でもあります。そんなワケで今回は、欧州で広まった「STARMAN人気」を検証すべく、変わったカヴァーを集めました。(2013年3月15日更新分/選・文=大久)


I Profeti / L'Amore Mi Aiuterà (1972)

 64年にビート・ポップ・バンドとしてデビューした、ミラノ出身のイ・プロフェッティ。実はバンドが結成されたのはロンドンで、60年代はストーンズ、ゼムといったバンドのカヴァーを残しています。そんな彼らが(幾多のメンバーチェンジを経て)72年、つまりオリジナルと同じ年にカヴァーしシングル発売したのが「STARMAN」でした。また、この曲を収録した翌年発売のアルバム「L'AMORE E…」では他にもムーディー・ブルース「サテンの夜」の伊語カヴァーも収録。

Dawn Vinci / L'Amore Mi Aiuterà (1972)

 56年生まれの、イタリアの美女シンガー、マーラ・キュベッドゥ。彼女は76年に「正式」なシンガー・デビュー、76年以降イタロ・ディスコのディーヴァとして数曲のディスコ・ヒットを残したシンガーでもありますが、実はその4年前、72年にこのダウン・ヴィンチという別名義でボウイの「STARMAN」のカヴァーでシングル・デビューしています。

Fredi / Muukalainen (1973)

 42年フィンランド出身のコメディアン/俳優/ヴォーカリスト、ソロ・シンガーとしては69年にデビューしたフレディー。彼も73年に「STARMAN」のカヴァーを残しています。ユーロヴィジョン・コンテストのフィンランド代表の常連でもあり、母国ではNo.1アルバムが8枚もある、という大スターなわけですが、トム・ジョーンズ、プロコル・ハルム、エルトン・ジョン、ビージーズ等のヒット曲をフィンランド語でカヴァーする、という「カヴァー・ポップ・シンガー」とも言えそうな存在です。

Nena / Starman (2007)

 ドイツ代表は、やっぱりネーナ。とはいえ、このカヴァーは2007年に発売された彼女のカヴァー企画アルバムの収録曲です。そのアルバムでは、他にもボウイの「HEROES」の独語カヴァーも収録されていて、ボウイの人気がドイツでは特別なものであることも伺えます。そりゃそうですよね、ドイツをロックのシーンのトレンドにしたのは、ボウイ本人だったわけですから。

Milky Edwards & The Chamberlings / Starman

 最後はちょっと飛び道具的(笑)カヴァーです。何やら60年代のモータウン的なジャケと、まんまモータウン的なアレンジで「STARMAN」をカヴァーしてる動画。しかもアナログ盤を再生してる場面がそのまま映っていますが、実はコレ、全てフェイクです。ミルキー・エドワーズという架空のアーティストが、まるで「モータウンがこの曲をカヴァーしたら」という設定で作ったもので、他にボウイ楽曲2曲が制作され、本人によってYOUTUBEにアップされています。まったく、こんなことをこんなハイクオリティーでやらかす人がいるわけですから、世の中捨てたモンじゃありませんよね。

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 知る人ぞ知る、という言葉は大昔からミュージシャンを形容するときによく使われてきた言葉ですが、時としてその裏には「オレこんなのまで知ってるんだぜヘヘン」ていう自慢めいた意味を孕むことがありますよね。さて、今回は「知る人ぞ知る」女性ギタリスト、グレッチェン・メン嬢をご紹介。偉そうなことは言えません。当方とてホントについ最近知ったばかり。個人的にはピロピロ系HRギターって大嫌い(笑)なんですが、でも、メチャかっこいいオネエサンなんです。(2013年3月22日更新分/選・文=大久)



Gretchen Menn / Fading (2011)

 まずは最新楽曲から。11年に発売された彼女初のソロ・アルバム『HALE SOULS』(ただしiTunesとアマゾンでのみ入手可能)収録曲の公式PVです。グレッチェン嬢は幼少の頃からクラシックギターを学んだという人なので、こういう楽曲もお手の物なんでしょう。しかし、こうしたクラシカル・スタイルを披露したのはこの曲が最初だと思われます。美しいソプラノ・ヴォイスを担当しているのは彼女の妹さんのクリスティン・メン。しかしまぁ、姉妹そろって美人スねえ。

Lapdance Armageddon / Tri-Tip (2010)

 彼女のもうひとつの顔がこちら。アコギ・デュオ「ラップダンス・アルマゲドン」名義でのインスト・ナンバー。このデュオは自主制作盤のEPを発売したのみ(こちらもアマゾンで入手可能)で、今後この形態での活動は未定とのこと。上記ソロ・アルバム共々彼女の自主制作によるCD発売なので、CDショップでは売ってないんですよね。つまり「セミプロ」のギタリストということになります。


Zepparella / When The Levee Breaks (2012)

 さて、今回の最重要動画(笑)です。メジャーデビューしてもいない彼女がなぜこれほどまで騒がれるのか、の理由がこのバンドでした。彼女はここ数年、女性メンバーだけで編成されたツェッペリン・トリビュート・バンド「ゼッパレラ」で西海岸中の話題となったからです。この(アマチュア)バンドの大成功で、グレッチェン嬢は多くのギター雑誌の表紙を飾る存在となりました。

Zepparella / Dazed and Confused (2012)

ゼッパレラによるZEPナンバーをもう1曲。あまりにもジミー・ペイジの個性が強すぎるナンバーなのでなかなかカヴァーされる機会のないこの曲を、弓持ってここまで完コピしちゃいますか、スゲーっす。真っ白な衣装の美女4人がドロドロのサイケ・ブルースをキメる、というのも痛快(笑)。ちなみにこのバンドはヴォーカリストを固定しておらず、「レヴィー・ブレイクス」とは別なシンガーがここでは歌っています。他の曲では黒人シンガーが参加した曲も。

Gretchen Menn Demos the Providence Silky Drive SLD-1F (2012)

オマケ動画。既に楽器ブランド数社からのスポンサードも受ける有名ギタリストとなったグレッチェン嬢。こちらは世界的に高い評価とシェアを誇るプロヴィデンスという日本発のハイエンド・エフェクター・メーカーのデモ動画。正直いってデモ演奏などどうでもよくて、ひと言も発せず、そっけないそぶりでギター弾いてるだけ、という、ドMな方向きの素敵動画。いいですねえ(笑)。

Gretchen Menn at DiMarzio.com (2010)

オマケ動画その2。こちらは大手ピックアップ・ブランドのディマジオ社の公式デモ動画ですが、上のプロヴィデンスのデモ動画とは対象的に、彼女がなぜこのデモ動画では「オーマイガー」を連発しながらニヤニヤしているかといえば、冒頭彼女が手にしているのは、ディマジオ社社長の所有する本物のバースト(59年製/推定価格が数千万円というオリジナル・レスポール)だからです。以上、美女ギタリストのリアル・ツンデレでした。
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