2013年年8月16日(金)

連載コラム【ライヴ盤・イン・ジャパン】その4
GSとキャンディーズを繋ぐ線 ~伊丹幸雄~

 たまには男性歌手を取り上げてみようと思います。とはいえ、普通ならジュリーや新御三家あたりから紹介すべきですが、あえて伊丹幸雄=サッチンを。
 伊丹幸雄はワイルドワンズの付き人を経て渡辺プロにスカウトされ、72年にデビュー。47回の日劇ウエスタン・カーニバルで西城秀樹、その後「ステージ101」に進む田頭信幸とともに「新人三羽烏」と呼ばれた。彼はGS崩壊後の音楽シーンで、ロカビリー~ウエスタン・カーニバル以来の、渡辺プロのロックンロールの熱狂と伝統を70年代に引き継いだシンガーだ。サッチンの後継にはあいざき進也がいて、ともに70年代におけるGSの音楽的継承者といえる。
 まずは72年にリリースされた最初のライブ盤『サチオ・ベスト・オン・ステー

ジ』を。当時伊丹のプロデューサーだったのは加瀬邦彦で、同盤での沢田研二の書き下ろし「イフ」やタイガースの「美しき愛の掟」のカヴァーにも70年代的なGS解釈が感じられる。伊丹幸雄は英語の発音はヘタだが洋楽的なリズム解釈はなかなかで、間奏で一瞬「シェリーに口づけ」が登場する「可愛い悪魔」では

客席のファンに一節歌わせるなど、客の乗せ方も上手い。
 バックの演奏はロックンロールサーカス。もとはフレンズという名で伊丹のバッキングを担当、その後あいざき進也のバックをつとめビート・オブ・パワーと名乗り、MMP~スペクトラムへと発展する。あいざきやキャンディーズのバッ

クで奏でるファンキーな演奏の原点は、この伊丹幸雄のステージにあるのだ。ステージ編曲とバンマスは元ワイルドワンズのチャッピーこと渡辺茂樹で、コール&レスポンススタイルのロックンロール「合言葉」など、スタジオ版よりいい出来。渡辺茂樹とのコント風の掛け合いで始まるジュリーの「許されない愛」での小刻みなギターやソウルフルな解釈、「ホワッド・アイ・セイ」のファンキーな演奏も聴きもの。全編で鳴り響くトランペットは新田一郎。
 もう1枚は『サチオロックミュージカル オン・ステージ 銀河のカーニバル』で、創作ミュージカルの実況録音盤だが、ナベプロは新人にレッスンを積ませステージに立たせ実力をつけていく育成スタイルなので、こういった創作ミュージカ

ルもその試みの一環といえる。注目すべきは「ビューティフル・サンデー」。ダニエル・ブーンの同曲が日本で大ヒットしたのは76年だから、ここで取り上げているのはかなり早い。
 この盤全体を通しての、前に出るドラミングはのちのリューベン辻野。本盤では「劣等生サチオ」も作曲している。そしてここでも

また「ホワッド・アイ・セイ」だが、ギターがよりノイジーになり、ドラムが強調されハードな印象になっている。
 伊丹幸雄はその後、「土曜の午後のロックンロール」弾ともやとツインボーカルで、オックスの福井利男が結成したローズマリーに途中参加、78年には中神和司と風来坊を結成と、70年代

ネオGSをひた走る。チャコヘルやローズマリー、フレンズらの登場で、「ぎんざNOW!」周辺で一瞬盛り上がった70年代ネオGSは77年のレイジーの登場で完結するが、実は一貫してこの世界を続けていたのが伊丹幸雄だった。70年代初頭の歌謡ロックンロールの実況盤としては貴重な記録だろう。「青い麦」と「ひょうきん族」だけがサッチンじゃないぞ。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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■写真上『サチオ・ベスト・オン・ステージ』。72年7月23日の大阪厚生年金ホールと、8月23日の東京・都市センターホールでの収録。 ■写真下『サチオロックミュージカル オン・ステージ 銀河のカーニバル』。73年7月22日の東京ヤクルト・ホールでの収録。



大人のひとり遠足〈単独行動のススメ〉〜靖國神社みたまつりの巻

 僕は人混みが大嫌いなんですが、どういうわけかお祭りは大好きです。いろいろと惹かれるものがあって、今年も靖國神社のみたままつりに出掛けてまいりました。今回は「大人のひとり遠足」と題して、先日(7月14日)行ったみたままつり・第一夜祭の様子をお伝えいたします。
 市ヶ谷方面、本殿に近い南門から境内に入りますと、

まず目の前に現れるのは道の両サイドにびっしりと並べられた提灯です。メインの参道では並んだ提灯が10メートルほどの壁にようになっていて、神門から大鳥居の方角に向かって眺める境内の様子は圧巻……なのですが、僕は目もくれずにまっすぐ奏楽堂へ向かいます。時間は夜6時半、目指すは日本歌手協会の所属歌手による奉納公演です。去

年、たまたまレコードを漁りに近くを歩いていたところ、奏楽堂の方向から聴こえるマンボのリズムに吸い寄せられ、行ってみると大津美子さんが「東京アンナ」を歌っていました。他にも、こまどり姉妹の御二方が笑顔で曲紹介をしながら一切ムダのない動きで三味線のチューニングをする瞬間を目撃したり、田辺靖雄さんが「夢であいましょう」の間奏で「坂本九さん、中村八大さん、水原弘さん、あえるのはみんな…夢の中…」と言ったのを聞いて涙したりと、たまたま寄ったにしてはあまりにも贅沢な時間を過ごしたのでした。今年のステージは直前まで大雨が降っていたこともあって少し時間が短めだったのですが、86歳というご高齢をおしてステージに立った三島敏夫さんの「同期の桜」や、あべ静江さんが歌う宮

城まり子さんのカヴァー「ガード下の靴みがき」など、今回も収穫たっぷりでありました。
 さて、九段下駅の方角へ元来た道を戻ります。今どき「オバQ音頭」が大音量でかかったりしている盆踊り場を横目に、今年は参道を少し外れたところにある禁断のスペースに近づいてみました。見世物小屋です。火吹き女、人間クレーン、蛇女、寄生虫男、首狩り族……これらの演目が小屋の中をノンストップで回り続けています。まさにこれは映画館で言うところの〝グラインド・ハウス形式〟。演目が進むに従って、少しずつ出口に向かって進み、最後に木戸銭700円を払う、というシステムになっております。小屋の中は撮影OKだったのでいろいろ写真を撮ったのですが、やはりこの衝撃は動画が一番。

火吹き女・アマゾネスぴょん子ちゃんの決定的瞬間を撮った動画がありましたので紹介いたします。おぞましいものをたくさん見せられた僕は気分を悪くするどころか逆に全身の血肉が沸き立ち、大満足で神社を後にしたのでありました。
 境内とその周辺は例年大混雑で、「みなさん一緒に遊びに行きましょう!」と気軽にお誘いできないのが

非常に残念なのですが、人波の中をスイスイとすり抜けたり、興味のある催し物だけを気ままに拾ったりと、単独行動の醍醐味を味わうには絶好のイベントでした。各々が同じ場所へ単独行動に出掛けて、現地で不意に顔を合わせる、というのも素敵だと思います。ホントは街中でバッタリ会うのが一番好きなんですけどね。
(真鍋新一=編集者見習い



『ローザ・ルクセンブルグ・コンプリート・コレクション』

 先月、ローザ・ルクセンブルグの6枚組ボックス『コンプリート・コレクション』が届いたので、その雑感を少しばかり。
 日本のロック・シーンにとんでもないインパクトを与えた男、どんと率いる稀代のゴッタ煮バンド、ボ・ガンボス。その前身バンドとなるのがこのローザ・ルクセンブルグであり… と

いうサワリを何となしに用意していたのだが、いや待てよと。今回、彼らの作品をじっくり聴き込み返しているうちに、「どんと=ボ・ガンボス=ローザ・ルクセンブルグ」という公式がほぼ成立しないんじゃないだろうかという気分になってきたのだ。おかしいな、中学時分に死ぬほど聴いたのになぁ。とまれ、こうい

う評価の見直しはよくあることで、別に過去の心持ちと辻褄を合わせる必要なんてまったくないのだけれど。
 結論から言えば、このローザ・ルクセンブルグ、ギターの玉城宏志、ドラムの三原重夫の存在がとてつもなく大きい。当たり前だが、決してどんとのワンマン・バンドではない。
 玉城のバカテク・ギターカッティングやハードロッキンなソロ、三原のひっそりと遂行されるアクロバティックなドラムパターンこそが、間違いなくローザの特異なる音楽の根幹を成していたことをこの期に及んで気付いてしまったのだ。
 どんとの奇矯で愉快な歌やたたずまいにばかり夢中になって、そのことに気付かなかった、あるいは軽視していた僕の昼行灯リスナーぶり、これは熱心なローザ信者から激しく糾弾され

るべきものだろう。すごく反省している。
 とりわけ、グループの〝龍虎〟どんとと玉城の個性がこぜり合いのように拮抗した2作目の『ローザ・ルクセンブルグⅡ』、ここにバンドの本質をハッキリとみた。ほとんどボ・ガボンス、ほとんどボ・ガンボスとは異質。ハッキリ分かれたふたつの世界がたすきがけのように入り乱れている。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープルのギターリフを持ち込んだのはもちろん玉城の仕業。トーキング・ヘッズのクリス・フランツのようなツイストした律動を司るのは三原の所為。もはや「ボ・ガンボスの前身バンド」とは軽々しく呼べない両者の怨念めいた自己主張がほとばしっている。ある種辟易しそうな緊張感をもたらした彼らの存在を抜きにしてローザを語るの

はありえないということだ。
 さらに俯瞰して、誤解を恐れずに言えば、「どんと(=ボ・ガンボス)の世界観なんて知らんわ、ボケ!」といった具合に噛みついた玉城こそ、真にローザ・サウンドの立役者であったのかもしれない。
(小浜文晶=HMV ONLINE)