2013年9月27日(金)

ヒトコト劇場 #29
[桜井順×古川タク]










秋の夜にはクラシック・ギターを

 クラシック・ギターの音色が好きだ。シンプルなデザイン、19個のフレットと音を出すための弦が6本。これだけの構造で、メロディー楽器にもなり、リズム楽器にもなり、伴奏楽器にもなる。またオーケストラ曲を演奏することもできる。スペインの作曲家、フェルナンド・ソルの作品「グラン・ソロ」を聴いたベートーベンが「まるで小さなオーケストラのようだ」と言った話があるとか、ないとか。とにかくそれ程、クラ

シック・ギターは多くの音色に富んだ楽器と言える。
 武満徹も、初期からクラシック・ギターの音色を愛した作曲家の一人だ。1977年には、荘村清志のレコード「12の歌・地球は歌っている」(装丁は和田誠)のために「ギターのための12の歌」を編曲、「ミッシェル」「ヘイ・ジュード」「イエスタデイ」「ヒア・ゼア・アンド・エヴリホエア」といったビートルズ・ナンバーから「ロンドンデリーの歌」、「虹のむこうに」「サマータイム」など、12曲のポピュラー・ソングを取り上げている。ちなみ

に12番目の曲は「インターナショナル」。武満は、この作品を書くにあたって、ギターという楽器について、「機能の点でかなりの不自由な面を持っています。しかし、そのために反ってこの楽器は作曲者(あるいは編曲者)に、特殊な愛着と好奇心を喚ぶのでしょう」と語っている。
 実際ギター曲を書く作曲者の多くは自らがギタリストである場合が多い。それは武満が語るようにギターという楽器が「小さなオーケストラ」と言われながらも「機能の点でかなりの不自由な面を持っている」ためだ。現在、日本の作曲家で武満の精神を受け継ぎ、「ギター作品集」を発表しているのが吉松隆だ。吉松は1983年4月から1年間、雑誌「現代ギター」でエッセイと共に毎月書下ろしのギター小品を連載する

という冒険的な企画を行なった。福田進一は、そこで生まれた作品を中心に、山下和仁のために書いた作品とアルバムのための新作を加えた吉松隆のギター作品集「優しき玩具」を1997年に発表。ジャズ風、現代音楽風、ルネサンス風から、テクノポップ(?)風まで、吉松いわく「おもちゃ箱をひっくり返したような」何でもありの楽しいギター作品集になっている。
 せっかくなので、日本人作曲家のギター作品を取り上げたCDをもう一枚紹介しておこう。大萩康司の「島へ」(2004年)。

武満徹の「ヒロシマという名の少年」「翼」「すべては薄明の中で」「島へ」の他、ジョン・ウィリアムスで愛奏で知られる藤井幸弘の「〝さくら〟による主題と変奏」、1993年に出版されて以来多くのギタリストたちに演奏されている藤井啓吾の「羽衣伝説~山入端博の旋律に基づく~」、ジャズ・ギタリスト渡辺香津美の難解な現代曲「アストラル・フレイクス」を取り上げている。大萩らしい繊細にして力強い、とても素晴らしい演奏だ。

(土屋光弘=ラジオ番組制作者)



一目惚れした音楽に再び出会うためのいくつかの方法
iPhoneとYouTubeでこんなイイ曲探し

  年がら年中大好きな音楽に囲まれていても、未知の音楽への飽くなき欲望といいますか、街で、ラジオでイイ曲に出会い「あっ」と声を上げることが多々あります。僕がレコード屋さんに行くのは、そんな「あっ」となった曲に再び出会えることを期待しているところが大いにあるのですが、「むむっ、このカヴァーは誰だろう?」「おい、これ昔CMで聴いたことあるぞ」「ん? ○○の新曲か? やるじゃん」という具合に知れば知るほど〝イイ曲アンテナ〟の感度が高くなって

しまうのは音楽好きの性(さが)。その分だけ「気になるけど知らない曲」が増えてしまい困っていました。しかしこの数年で状況は大きく改善、ひとえにスマホーー僕の場合はiPhoneのおかげです。
  例えばラジオで「あっ」となった場合、最近はFM雑誌に代わって局のHPでプレイリストがリアルタイムで更新されるのが当たり前になり、アクセスして聴いた時刻と照らし合わせればすぐにわかります。曲名と歌手さえわかれば、あとは家に帰ってユーチューブ

で検索するだけ。たいていの曲はファン、もしくは歌手本人によってアップロードされています。
  さて、問題は街中やお店で「あっ」となったときです。今までは歌詞の一部をどうにか聴き取り、そのフレーズでウェブ検索するという方法を取っていましたが、非英語圏の曲となると完全にお手上げです。そんなときに大活躍するのはiPhoneアプリの「SHAZAM」――音が鳴っている方向にiPhoneのマイクを傾ければ、誰が何を歌っているのか教えてくれるアプリです(アンドロイドOSでも使えるそうです)。有線やお店のCDの場合はDJが曲紹介をしてくれることはないのでこれが大活躍。最初はただのおもちゃだとバカにしていたのですが、バージョンアップを重ねるごとに精度が上

がっていき、「どうせ有名な曲しか知らないんでしょ?」と疑う僕を度々驚かせるようになりました。ヒットする確率はおよそ7割強といったところで、iTunesストアに登録されていない歌手や最新の邦楽以外に弱かったりなど、至らないところもありますが、これで日々の「あっ」はだいぶ解消されました。そうそう、DVDで映画を観ているといつも気になる挿入歌にも有効なので、エンド・クレジットの細かい文字を読まずに済むようにもなります。SHAZAMが拾ってくれた情報に曲の印象を一言添えて、メモ代わりのツイッターでつぶやき、そしてまた帰宅後にユーチューブのお世話になる……という寸法です。
  ユーチューブと言えば、サイトが自動的にオススメしてくれる関連動画をひた

すら辿り続けて理想の曲に出会うのを待つ、というのも手です。これはもう最終手段、というより末期的な症状だと言えそうですが、普通に過ごしていたらまず出会わないような音楽とぶつかることが多々あり、これもまたレコード収集とはまた違う僕の楽しみになりつつあります。具体例を挙げるとチェコの60年代アイドルとか、「ザ・ヒットパレード」そっくりのイタリアの歌番組とか。どこを調べても誰も書いていない、出演者も歌手も誰ひとり知らない、そもそもなにを話し歌っているのかもわからない、でも聴こえてくる音楽は自分好みという不思議な感覚がたまりません。
 もし日々の「あっ」で困っている人がいたら、これを利用しない手はないですよ!
(真鍋新一=編集者見習い
 Shazam 開発: Shazam Entertainment Ltd. iTunes Storeにて無料で販売中(広告のない有料版もあり)