2013年12月27日(金)

ヒトコト劇場 #34
[桜井順×古川タク]








手塚治虫のライフワークが新装版として刊行開始!!
 

 手塚治虫がライフワークとして取り組んだ作品「火の鳥」が、この度、小学館クリエイティブの〈ガマンガ〉シリーズにラインナップされた。すでに刊行済みの第一巻「黎明編」に続き、今月からは毎月二冊のペースで全十一巻の刊行を予定している。企画・編集は本

誌同人の川村寛氏。
 同作はこれまでも幾度となく単行本化されており、昨年も同じく本誌同人の森遊机氏の企画・編集によって、復刊ドットコムより、雑誌掲載時のままを再現した「火の鳥《オリジナル版》復刻大全集」が完結したばかり。また、近年、朝

日新聞出版からあさひコミックス版、講談社から手塚治虫文庫全集版も刊行されている。
 かように複数の単行本が市場に出揃った格好だが、どの版を選ぶかは読者の判断に委ねるしかない。それぞれ独自の編集がなされており、定価や判型、紙質は勿論のこと、総頁や解説執筆者も異なるからだ。具体的には、あさひコミックス版は軽装で、文庫全集版はその名の通りハンディサイズ、《オリジナル版》はカラー頁を含め連載時の全ての頁が収められ、しかも美麗化粧箱入りの限定版。そして、〈ガマンガ〉版はというと、それらいずれとも異なっている。
 そもそも「火の鳥」の単行本は大別すれば二種類あり、ひとつは一九七六年から一九八一年にかけて〈月刊マンガ少年〉別冊として

朝日ソノラマより発行されたB5判雑誌タイプの朝日ソノラマ版、そしてもう一方が一九八六年から一九八七年にかけて角川書店より発行された四六版上製の角川書店版である。この度刊行が始まった〈ガマンガ〉版は、後者を基に編まれたもので、これは手塚による最終編集版だ。無論、作者による編集版が読者にとって必ずしも最上のものとは限らない。編集段階で削除された頁や落とされたコマに思わぬ魅力が隠されている場合は往々にしてあるからだ。そのためマニアは出費覚悟で全ての版を揃えるしかない。名作は時代と共に形を変えて読み継がれるというが、本書などその最たるものだろう。
 ちなみに〈ガマンガ〉版最大の特長は、現在残されている原稿を使用した新装版という点で、巻末付録と

して扉絵が掲載されているのも嬉しいところ。解説も過去の版とは異なる人選で、現在の視点から見た作品論、手塚論が展開されるようだ。また、全巻予約特典として手塚の講演音声を収録したCD「虫ボイス」と「火の鳥カレンダー2014」が用意されているのも見逃せない。予約締切は来年一月末日、必ず入手したい方はくれぐれもお忘れなく!
(濱田高志=アンソロジスト)
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●小学館クリエイティブより全十一巻の刊行がスタート。一巻「黎明編」は特別価格950円、二巻以降は1700円(共に税別)。



大人の遠足~金田一さん、大集合ですよ! 
 

 11月23日(土)の勤労感謝の日、岡山に行ってまいりました。岡山といえば、そう、横溝正史先生の生んだ名探偵・金田一耕助誕生の地です。
 岡山県倉敷市真備町は、横溝正史が戦時中に疎開していた土地でもあり、ここで創作を練った正史は、岡山を舞台にした『本陣殺人

事件』『獄門島』など日本ミステリ史に残る大傑作を生み出したのです。もちろん『本陣殺人事件』は金田一耕助の初登場作品でもあり、この真備町が実際に小説の舞台となっているのです。というわけで横溝ファンにとっては聖地ともいえるこの町で、毎年、金田一さんから犯人、被害者まで

思い思いの衣装に身を包んだファンたちによるコスプレイベント「1000人の金田一耕助」が開催されています。12月16日に洋泉社から発売されるムック『金田一耕助映像読本』の取材も兼ねて、今年はこのイベントに潜入してまいりました。
 回を重ねること5度目の

イベント。中学生から70代まで、お釜帽にマント、袴姿の金田一さんたちが、集合場所の清音駅(原作では「清―駅」)に大集合。よく見ると、金田一さんだけではなく、事件の当事者たちもズラリ。仮面の佐清の脇には松子夫人が。『八つ墓村』の32人殺し・田治見要蔵(小学生要蔵もいたぞ!)に双子の老婆・小竹小梅、『悪魔の手毬唄』の由良泰子や「ごめんくださりませ、おりんでござりやす」、『本陣~』の三本指の男。渋いところでは『不死蝶』の鮎川君江、『壺中美人』の表紙絵の女まで皆さんよくやるなあ。この清音駅から7キロの道のりを、『本陣~』の原作に沿ってゾロゾロと歩いていくのだが、そこは現代人、下駄履きの金田一さんはアスファルトの道がキツそうですな。
 道中では横溝ワールドの

登場人物が現実に現れ、寸劇を繰り広げるのもお楽しみのひとつ。
 演じるのは地元の人たちだが、回を重ねるごとに演技力がUPしているとか。三本指の男が飯屋に水をもらいに行くシーン(指紋が残るエピソード)、今も残る横溝正史疎開宅での、横溝先生と金田一さんのトーク、さらには倉敷市の女性市長さんまで金田一コスプレでやってきてご挨拶。果ては千光寺の和尚さん(本物です!)や「たたりじゃー!」の濃茶の尼まで登場します。実際、真備町にある千光寺は『獄門島』に出てくる寺と同じ漢字、どころか宗派まで同じなので、横溝先生がここをモデルにしたことは間違いないでしょう。
 イベント終了後は横溝ファンたちが集まっての意見交換会も開催。地元の人た

ち手作りのおいしい食事をいただきながらのマニアトーク炸裂タイムですが、今年は金田一さん生誕100年とあって、誕生日ケーキが登場しました。しかも『本陣~』の事件現場を再現したデコレーションケーキ! よくやるよ!!
 ちなみにこの道中は「ミステリロード」としてウォーキングコースになっているので、『本陣~』を読んだら金田一さんになりきって、岡山の田園地帯を散歩するのもオススメ。しかも道中には作品にまつわる人物の像が置かれているのですが、『悪霊島』の巴御寮人、『八つ墓村』の森美也子、『悪魔の手毬唄』のおりんさん、『獄門島』の了然和尚と、どれも岡山に関係する作品、そして全部○○じゃないですか!
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)