2014年3月14日(金)

ヒトコト劇場 #39
[桜井順×古川タク]








連載コラム【気まぐれ園芸の愉しみ】
梅の花はにおわない?

 真冬日のある朝、体を丸めて町を歩いていると、冷たい風に乗って可憐な香りが鼻をくすぐった。きょろきょろと見回しても、なかなか出どころが見当たらない。
 ビルの角を回り込むと、隣の民家の塀の上からツンツンと、白梅の枝が顔を見せている。こんなところに梅の木があったとは。毎日のように通り過ぎているのに、全く気づかなかった。一日の始まりにこんな発見があると、「幸先がいいかも」と気分も上がる。
 梅は、一年の最初に「花の香り」を届けてくれる植物の一つだ。甘酸っぱくしっとりとした香りを不快に思う人はいないのではないだろうか。この香りをかぐと、「まだまだ先」と思っていた春の訪れを突然予告された気分になり、寒さで固まっていた体も自然とほ

ぐれる。おそるべき梅の香り効果、である。
 梅干しはもちろん、こんぶ梅や「小梅ちゃん」など、梅ならなんでもウェルカムな私にとっては、梅の木はぜひ育てたい植物だが、樹木を植えるスペースはない。仕方がないので、毎年、公園や近隣の庭先に咲く花を眺めるのにとどめている。
 スーッとのびた枝に点々

と花をつける白梅や紅梅には、満開の桜のような華麗さや迫力はないが、凛とした佇まいがある。そして、厳かな美しさを際立たせているのが芳醇な香りだと思う。
 本格的な春が訪れると、さまざまな花が一気に咲くが、あまり花の香りを感じにくくなる。これは、湿気を含んだ重たい空気のせい

で香りが広がりにくいため。
 真冬の澄みきった空気は、梅の香りをさりげなく鼻先に漂わせるのにちょうどいい塩梅なのだろう。もしかすると、香りの強い百合などと並べたら、梅の香りなど、本当はかすんでしまうほど弱いのかもしれない。けれども、あまりにも花の香りがプンプンと強くにおうと、花の魅力を損なうように思うのだ。
 私にとって「香り」は、ふんわりと漂って鼻先を通り過ぎるもの。一方「におい」は、こちらの意志とは関係なく「臭気の塊」となって人の鼻の穴をこじ開け、粘膜にこびりつくもの。
それは、いわゆる「悪臭」に限らない。本来なら不快に感じないはずのよい香りだって、強すぎれば香害になる。香水をつけすぎた人が「においの爆弾」と化すのが典型だ。

 その点、梅は「におう」ことがない。爽やかだけれど慎ましく、もっと嗅いでいたいのに、風向きが変わるとあっという間に逃げてしまう。つかみどころがないだけに、香り出会ったときのうれしさも格別なのだろう。
 ちなみに、梅と同時期に咲く水仙も、慎ましやかな甘い香りが魅力の花。この

二つの花の競演が見られるのが、鎌倉・瑞泉寺だ。
 境内は、上を見上げれば梅の花の雨、足もとに目を落とせば、水仙の花々のさざ波。それでも花の香りは、決して「におって」こなかった。二十年も前に訪れたのに、いまだに忘れられない。今も芳しい香りを漂わせているのだろうか。
(髙瀬文子=編集者)




「ジャジック・イン・クラシック」ミシェル・ルグラン feat. カトリーヌ・ミシェル
 
 ミシェル・ルグランの最新作がリリースされた。タイトルは「ジャジック・イン・クラシック」。ジャズのスタンダード曲をオーケストラ・アレンジによるクラシック演奏で表現した作品だ。
 今回はハープ奏者のカトリーヌ・ミシェルをソロ・プレイヤーとしてフィーチ

ャーしている。日本盤のプロデュースは、ルグラン氏曰く「長年の友人で、情熱家の中の情熱家である」本誌編集長。解説によると、このプロジェクトはもともと「ルグラン・ジャズ2」と呼ばれていたそうだ。「ルグラン・ジャズ」といえば、1958年、ルグランがニューヨークで、マイ

ルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ビル・エヴァンスなど、当時のトップ・ジャズ・ミュージシャンたちと共演した名盤。このアルバムを制作する際、ルグランが出した第一の条件が「マイルス・デイヴィスとの共演」というのはよく知られた話。
 結局「ルグラン・ジャズ」でのマイルス・デイヴィスとの共演は4曲だったが、50年以上を経たセカンド・プロジェクトでは、まるまる1枚、カトリーヌのハープと共演する形になった。
 アルバムで取り上げているのは、「ラウンド・ミッドナイト」「ネイマ」「セントルイス・ブルース」など、どれもジャズ・スタンダードとして知られている有名曲ばかり。特にアルバムを通した「緩急」の流れが素晴らしく、オープニングのバロック調に展開する

「ジャンゴ」から、ハープという楽器の音の特性を最大限に生かした「キャラバン」まで、まるで「ハープとオーケストラのためのジャズ的(ジャジック)協奏曲」を聴くようにアルバム全体を一つの作品として楽しむことが出来る。
 ルグランのオーケストラ・アレンジは、「ジャンゴ」ではMJQのピアニストのジョン・ルイスへ、「ザ・マイ・アイ・ラブ」ではガーシュウィンの作品へのオマージュをというように、作曲者への愛情を忘れない。もちろん今回のアルバムのもう一人の主役でもある最高のハーピスト、カトリーヌへの愛情も。
 愛情ついでにもう一つ。アルバム・ジャケットについて。「ルグラン・ジャズ」はこれまでに数種類のジャケットでリリースされているが、アメリカ&ドイツ、

フィリップス盤(830-074-2)は、サングラスをかけた26歳の若きルグランが両手で指揮をする隣で煙草を持ちながら目を閉じて音楽を聴くマイルス・デイヴィスの写真が使われている。今回の「ジャジック・イン・クラシック」では、同じポーズで指揮をする現在のルグランの横に、うっすらとハープが映った写真が使われている。
 尚、日本盤はボーナス・トラックとして、「ブライアンズ・ソング」と「貴方が二人の間で」の2曲が収録されており、いずれもルグランとカトリーヌの2人のみの演奏で、日本で初めて発売される音源である。
(土屋光弘=ラジオ番組制作者)
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