2014年5月23日(金)

おいしい調味料


 先日、日本の調味料についてまとめた書籍「おいしい調味料ご案内帖」(東京地図出版)を入手した。以前、本誌にソースについて書いた事があったが、この書では、砂糖、塩、酢、醤油、味噌等の調味料について、地域別/商品ベースで紹介している調味料好きにはたまらない本だ。上記の5大調味料の他に、秋田の「しょっつる」、石川の「いしる」などのポピュラ

ーなものから、「雲丹醤/鯛醤」(福井・小浜海産物)などの珍しいものや、カレー好きにはたまらん「カレー醤油」(和歌山・湯浅醤油)などまで、約190点も掲載している。
 ここ数年、健康の事も考え、出来るだけ毎日サラダを食べるようにしているのだが、最近はドレッシングも飽きて来て、ポン酢や土佐酢から始まり、ワインヴィネガーやバルサミコ酢な

ども試している。本書で、関連するものは無いのかと、パラパラめくっていたところ、あるではないか。ポン酢コーナーが。早速、本書に載っている「ゆすの村」(高知・馬路村農協)、日を置いて、「旭ポンズ」(大阪・旭食品)を購入。以前、探索に困難だったソースの時とは異なり、この2商品は近所のスーパーでも難なく手に入った。どちらも既製品とは異なり、ナチュラルな酸味が素晴らしく、甲乙つけがたい。
 そして、同コーナーで気になったのが、「たで酢」(大阪・大徳)。いわゆる「タデ食う虫もすきずき」のタデだが、これは鮎の塩焼きにかけると絶品という。名古屋在住の折、長良川によく鮎を食べにいったりしたものだが、これは知らなかった。さらに、冷やっこやサラダにかけても美味ら

しい。さっそく、大徳のネットショップに注文した。
 しかし、こう調味料ばかり買っていると、冷蔵庫が調味料だらけになり、最近、家人から訓告を受けた。しかし、料理の素材の旨みを引き出してくれる調味料をもっと試したい気持ちがどんどん高まってきている。ああ、誰か日本各地の調味料が味わえる店を開いてくれないものか。
 以前、恵比寿に各国の水が味わえるウォーター・バーがあり、通ったものだが、理想としては、それに近い。ちょっとした、あえ物やサラダ等小鉢を選んで、各地域の調味料を試す事が出来る。同じ素材で違う調味料を試す醍醐味。それは中々家庭では出来ない。そんな店が出来たら毎日でも通うし、私の冷蔵庫問題も解決するのだが。
(星 健一=会社員)



連載コラム【ライブ盤・イン・ジャパン】その11
実はフォークの歌姫だった~天地真理

 ここから何回か続けて、70年代女性アイドルを取り上げようと思います。最初はこの方、天地真理。数々の毀誉褒貶に晒された人だったが、歌手としては素晴らしい才能と実力の持ち主だった。それは彼女のステージを聴けばわかるのだ。
 まずは74年9月15日九段会館で収録された『天地真理オン・ステージ』。2枚組の二部構成で、前半がフォーク編、後半がヒット・ポップス編。当然、興味深いのはフォーク編で、冒頭のデビュー曲「水色の恋」からアコースティック・ギターのみをバックに、符割りも変えて歌っている。この盤でもウッディ・ガスリーの「わが祖国」や森山良子の「愛する人に歌わせないで」といったカヴァーの完成度が高い。しかもフォーク・パートではドラム田中清司、ベース武部秀明、

エレキ水谷公生、アコギとバンジョーに石川鷹彦や吉川忠英といった布陣。そこにバンド・アレンジの「想い出のセレナーデ」がスタジオ盤よりタイトな演奏で収録されている。当時、この曲が出た時「あれ、暗いなあ」と思った記憶があるが、こういう流れで聴くと何の違和感もない。そうだった、彼女は最初、フォー

クを歌って世に出て来た人なのだ。森山良子~本田路津子~天地真理と聴き進めていくと、彼女のファルセット・ヴォーカルの特性がわかる。あまりポップスに向かないはずのこの唱法で、見事に幾多のヒット曲を出し続けたことも称賛に値するが、やはり本質的にはフォークの歌い手なのだ。アイドルとしての人気が沸騰

し過ぎて、絶頂期の後半はスタッフも歌手本来の方向性をコントロールできなくなっていたのではなかろうか。人気が落ち着いてきた頃、上手くフォーク的な路線に着地できればよかったのに。後半のポップス編ではミッシェル・ポルナレフの「愛の休日」の伸びやかさと深みに溢れたヴォーカルが良く、彼女の名唱のひとつといえるだろう。「ひとりじゃないの」も本来のカントリー・ポップ的な曲調に近いアレンジになっていて素敵だ。
     ※
 彼女は人気後退期にも『私は天地真理』というライヴ盤を残している。76年4月17日、郵便貯金ホールでの収録だが、この時期に会場に集まった人たちは、本当に天地真理が好きな人たちだろう。タイトルからして意味深だが、「『いち

ご白書』をもう一度」、「春の風が吹いていたら」、「なごり雪」と、フォーク寄りのカヴァーが多い。驚くのがみなみらんぼうの「ウイスキーの小瓶」とグレープの「哀しきマリオネット」「告悔」で、ことに「告悔」は「今日、私はこの曲を歌いたかったんです」というMCに始まる文句なしの名唱。アイドルから次

のステップに移ろうとする決意表明にも聴こえる。
 後半「ふたりの日曜日」で、興奮して歌が上ずっているのが印象深い。客席に降りて回っているのか、観客の思わぬ声援と盛り上げに、感情が昂った模様。天地真理は現役時、あまり破綻を見せない完璧主義の人だったので、一瞬、彼女の素を見てしまったような気

がした。フォークが半数以上を占めているのも、デビュー時に原点回帰したのだろうか、異常な人気と熱狂から解放され、根強いファンに囲まれようやく好きな歌を歌い始めた時期だったのかもしれない。だがその時間は短く、半年後に彼女は活動休止となったが、このライヴ盤を聴いて改めて「ああ、いい歌手だったんだ」と今更ながら気づかされた。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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写真上●『天地真理オン・ステージ』
指揮=竜崎孝路、演奏&コーラス=森田公一とそのグループ、コーラス=トライアングル。
写真下●『私は天地真理』
構成は小谷夏こと久世光彦。音楽=竜崎孝路。演奏者は不明。



てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#15/2011年5月28日号)
VISITORS[訪問者] 1

 気温も湿度も上昇し、春と言うには不似合いな気怠いヌルさを感じたある日、以前から些細な不調を訴えていた愛車のメンテを依頼しに、都内の某バイク屋に赴きました。この店は扱う車種も集う人々も皆ワイルドで美しい、本当に愛すべき場所です。
 その店にこの日、一人の珍客が訪れました。「大崎の駅ってどっちですか?」。歩けば1時間程かかると思

わしきそのバイク屋の店先で彼が尋ねます。「何? どしたの? 迷子? お母さんは?」。こちらの質問にはあまり応える事もなく、それでも彼は「連れてって」とハキハキとした言葉で僕にネダります。この春小学2年になったばかりだという彼。聞けばこの日、同伴していた女の子が彼そっちのけで私用に奔走し、あまりにも彼を待たせるその我侭な態度に我慢できなくな

り、ひとりスネて彷徨っていたところ、ホントに1時間以上歩き廻った後にこの場所に辿り着いた、とのこと。
 「お前なあ、女を待てないなんて男じゃねえぞ」とバイク屋の店主が彼を茶化し、場が和みます。
  「しょうがないスねー」。バイクの修理を店にお願いし、所持金10円、身長1Mに満たないこの彼の小旅行(の帰路)に、当方が付添人をすることに。思いがけずのプチ「菊次郎の夏」体験です。
 とはいえ、一般的には所帯を持ったり子供を授かったり離婚を経験したり、そんなことが同世代の会話で頻繁に出てくるイイ歳のハズなのに、子供の扱いなんてモノにまったく無縁に今日まで生きてきた当方。この小旅行でドキドキしてたのは、知らないオジサンを

頼るしかなかった彼ではなく、こちらの方だったのは間違いありません。
 道中、互いの名前さえ知らないのに、互いの心を深く探り合う会話が交わされます(彼は絶対にママにはこの件を知られたくない、と譲りません)。また道中目に入るモノには全てに最大の関心を持ち、公園があればブランコで大暴れ&大絶叫、猫が道路に寝ていれば同じコンクリートのベッドで真横に添い寝。まさにワイルド・オン・ザ・ストリート。彼の行動規範と旺盛な好奇心を尊重はしつつも、やはり「ダメじゃねえかコラ」と言い聞かせる場面が10秒に1度やってきます。商店街、電車の車中、雑踏に紛れる駅、いつでもどこでもスリリングな彼の手を離す事は決してできませんでした(つづく)。
(大久達朗=デザイナー)