2014年5月30日(金)

演奏者推測のススメ 2


 今月も一枚のアルバムをテキストに演奏者を推測してみましょう。筆者はベース・プレイヤーなので、今回も主にベーシストの聴き分けになります。今回のテキストは、コンピレーション『ソフトロック・ドライヴィン 空と風とわたし』(ビクターエンタテインメント)を取り上げます。
 オープニングに収録され

ている岡田可愛「明日へ飛び出せ」(72年)は、鈴木淳と推測されます。なお、鈴木淳という音楽家は、著名な人物だけでも3名います。伊東ゆかり「小指の思い出」(67年)や、ちあきなおみ「雨に濡れた慕情」(69年)を作曲した作曲家の鈴木淳。ジャズ・ベーシストでジュン・ベース・スクールの設立者の鈴木淳。

そして、チューインガム・ウィークエンドやザ・ピロウズのベーシスト鈴木淳です。本稿では、ジャズ・ベーシストの鈴木氏を指しています。鈴木氏のプレイは、前号で説明した寺川正興に似た音色やフレーズが特徴です。寺川氏が得意とするエレベーター奏法は、鈴木氏も取り入れることがあるので、聴き分ける際要注意です。ポイントとしては、寺川氏よりオーソドックスなプレイと音色ということでしょう。攻めるラインの寺川氏に対して、歌伴に徹したステディなラインが多く聴きうけられます。本曲の演奏を鈴木氏と推測した決め手は、ヴァースなどでたびたび入るフィルインと、サビでのシンコペーションの効いたラインです。ベースが鈴木氏とすれば、ドラムは猪俣猛と推測されます。猪俣氏がスタジオ参加した

楽曲のほとんどは、鈴木氏か寺川氏がベースを担当していました。よく共演するスタジオ・ミュージシャンの関係性を頭に入れておくことも、推測の手がかりとなります。猪俣氏と思われる、突っ込み気味のフィルと、推進力たっぷりのノリは、現代の打ち込みでは絶対に出せないノリです。音楽をやっていない人にグルーヴというものを口で説明するのは至極に難しいのですが、猪俣氏や石川晶などの作品を聴いてもらうのが一番てっとり早いと思います。この推進力こそグルーヴなんですね。
 閑話休題、推測を続けましょう。8曲目の有沢とも子「抱きしめて」(69年)には個性的なトーンのベースが聴こえます。このトーンは明らかに江藤勲です。ピックアップにピックを叩きつけるような力強いピッ

キングによるパーカッシヴなトーンは唯一無二のものです。ほかにも、麻生圭子「悪魔の香水」(70年)、岩渕リリ「潮騒の中で」(72年)、永井秀和「三次元の世界」(69年)、城千景「真夜中のピエロ」(70年)などでも、江藤氏と推測できるプレイを聴くことができます。チェリッシュ「南国からの手紙」(73年)は、江藤氏に近いトーンですが、パーカッシヴな成分が江藤氏ほどたりません。フレーズもオーソドックスです。おそらく武部秀明によるプレイと推測されます。武部氏は、江藤氏にピック弾きを指南していたこともあり、ピック弾きの際は似たトーンを出します。
 オリーブ「カム・オン…!」(70年)は、上村修がベーシストで正式メンバーとして在籍していますが、少なくともリズム隊は本人

たちによる演奏ではありません。当時この推進力たっぷりのリズム隊は、スタジオ・プレイヤーをのぞけば余り存在していませんでした。そして、このエレベーター奏法満載のベースラインは寺川氏と推測されます。ドラムは石川氏と推測されます。8ビートの曲ですが、リズム隊は完全に16ビート・ノリです。この推進力こそが、スタジオ・プレイヤーならではのグルーヴです。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)
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オムニバス『ソフトロック・ドライヴィン ビクター編〜空と風とわたし』(2006年/ビクターエンタテインメント)●ブルコメから岡田可愛、チェリッシュ……74分にわたって吹きすさぶ名曲の嵐!16000字におよぶ曲目解説付き。監修・解説=濱田高志。



自主制作マンガ界のオマージュ三段重


 昨年の映画「パシフィックリム」にハマれなかった。ギエルモ・デル・トロ監督の手腕は知っていますし、楽しみで初日に観にいったんですよ。日本の特撮映画や巨大ロボットアニメに対する敬意、円谷生まれダイナミック育ち悪そなヤツはだいたい怪獣な、70年代の元チビッ子へ向けた質の高いイジりは良くわかります。けれども、圧倒的にパルピテーションがなかったんだよなあ。唯一、怪獣の死体を漢方薬として売りさばく

香港マフィアのみが光っていた。その後、多く目利きが絶賛するのを見るにつけ、何となく、おむつプレイを連想したりして、俺にはその趣味なかったわー、とモヤモヤしていた。
 その頃、下北沢の古書店店主・徳川龍之介は、この映画にいたく感銘を受け、「自分ならこうする」と建設的な妄想を楽しんでいたようだ。そして、そのコミカライズを思い立ち、マンガ家の齋藤裕之介に声をかける。「サメ叩き」(青林

工藝舎)や「アメちょうだい」(2011年/ベンチプレス)の著書があり、素朴さと生真面目さとくだらなさが同居した、マンガの登場人物と読者が同時に呆然とするような作風で知られる(知られて欲しい)作家である。そのタッグで生まれた怪作が「トーキョー・ベイ」(2014年/古書ビビビ出版部)。物語はほぼ、「パシフィック・リム」だが、正直オリジナルよりトキメいた。こと怪獣のデザインは、本家を軽く越えて魅力的だ(大伴昌司調に解剖図を添えるイジりは映像化不可能)。加えて特異なのは、ここに「笑っていいとも!」へのオマージュを含めたところで、奥付の日付も放送終了日に合わせた「2014年3月31日」。これは必然ではなく、自主制作マンガならではの自由さだ。樋口毅宏「タモ

リ論」は別格として、乱発されたタモリ関連書ブームのなかでも異端な存在といえる。タモリ(に似た人物)の総指揮によって、巨大ロボットは地球を救ってくれるかな?…あ、レスポンスは無くていいです(いいとも!)。更に日本で最もポピュラーな英雄譚が重ねられ、日本人が改めて日本人に捧げるマンガとして見事。つくづく「パシフィック・リム」を観ててよかった、と思った。
(足立守正=マンガ愛好家



てりとりぃアーカイヴ(初出:月刊てりとりぃ#16/2011年6月25日号)
VISITORS[訪問者]2

 ヤンチャな相棒(7歳)の介抱のため、池上線のたった2駅間の車中で永遠にも思える程長い時間を経験した後、JRに乗り換え。満員ではないものの、当然車中は人で溢れています。周囲はこの変な組み合わせの2人をどう見ていたのでしょうか。運良く「親子」と思ってもらえればラッキーこの上なく、むしろ時節柄何らかの事件性を見出だすことのほうが容易でしょ

う。我ながらそう客観視できる程の、異様な風体の2人組だったと思います。
 電車はすぐに目的地・大崎に到着、彼の小旅行は終わりに近づきつつあります。どうやら詳しく訊くと、戻る場所は彼の自宅ではなく〝彼女の家〟のようです。学校帰りに荷物を彼女の家に置き、遊びに出かけて今回の彷徨となったようで、自宅に帰るにはどうしてもそのランドセル等の荷物が

必要だということらしいのです。駅から数分歩いた住宅街の中に〝彼女〟の家はありました。しかし家人は不在。んー帰宅を待つしかないねえ、と話し、外の道路でまた野良猫と戯れていました。
 それまで何度訊いても「じゃあクイズ出すね」と言ってその話題を避けたい様子をほんのりと窺わせていたため結局答えを貰えないままだった質問を、最後にここでしてみることにしました。「おい、名前教えてくれよ」。もしかしたら彼は個人情報が漏れることで、その後「大人の世界の理論」によるなんらかの処分を受ける、そんな可能性を危惧していたのかも知れません。名前に「日」の字が入るというヒントは貰いましたが、正解を口にすることはありませんでした。
 その時です。ピンクの自

転車に乗った美少女が「ヒューガ!」と叫んで近寄ってきました。〝彼女〟です。「探したんだからー」。まるでこの小一時間のことが何も無かったかのように瞬時に元の世界に戻っていく彼と彼女。
 さてさて邪魔者は一刻も早く消え去るべき、当方も自分の場所へ戻る時間です。土と戯れて黒くなった7歳の小さな手と、オイルで黒く汚れた当方の手が遂に離れる時がきました。「んじゃあな、ヒューガ」。
 どうして彼の名前を僕が知ったのか、とても驚いた表情を最後に見せました。おい7歳児、オッサンをなめんなよ(笑)。
 それから、お前さんは今日の出来事などすぐに忘れるだろう。それでヨシ。でも俺はメチャ楽しかったよ。ありがとう。
(大久達朗=デザイナー)



★てりとりぃ×宇野亜喜良 コラボレーショングッズ 第3弾★

 先日通巻50号をむかえたフリーペーパー「月刊てりとりぃ」。50号を記念して、2014年オリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバー(セット販売のみ)
■正方形型のマグカップは、3面に書き下ろしイラストをプリント(写真をクリックすると絵柄が拡大表示されます)キューブBOXには「てりとりぃ」の英字ロゴがプリントされています。そしてブックカバーは生成り素材にプリントした文庫サイズになります。■セット販売価格 5,000円(送料別)

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