2014年6月20日(金)

背番号8の息子たち


 ワールドカップ、ブラジル大会が開幕した。今回の日本代表には、柿谷、山口、清武、香川、大久保と、J1、セレッソ大阪の所属、あるいは出身の選手が5人もいて、いつも以上に楽し

みにしている。というのも、わたしは、もう30年近くセレッソのホーム、長居スタジアムの近所に住んでいて、当然ながら地元のセレッソを応援しているからだ。日本サッカー東の聖地、国立

競技場はまもなく取り壊されるが、西の聖地、長居は健在である。部屋の窓から眺めるスタジアム、朝日に輝く大屋根が眩しい。
 ここへ越して来たのは、まだJリーグの構想もなかったころだが、じつは、セレッソへの愛着は、その前身である日本サッカーリーグ(JSL)、ヤンマーディーゼル時代に遡る。1968年、メキシコ・オリンピック銅メダルを機に巻き起こった、第一次サッカー・ブーム。旧・神戸中央球技場での試合終了後、興奮のあまり友達とグラウンドに乱入、思わず釜本の太ももに抱きついてしまった。たかったハエを払いのけるように、世界の釜本が軽く脚を振った瞬間、わたしはぬかるんだグラウンドでスピンしていた。泥だらけになりながらも、少年の心は何とも言えない幸福感で満

たされていた。以来、ヤンマー、セレッソとともに数多くの熱狂とカタルシスを味わってきた。今回の代表メンバーにも、期待せずにはいられない。
 とくに、チームのエース・ナンバー「8」を継承した、香川、清武、柿谷の3選手。2002年日韓大会で活躍した森島を超える結果を出すことが、なによりの恩返しとなるだろう。しかし、代表の青いジャージをまとった彼らが出藍の誉れとなすべきは、森島だけではない。前身のヤンマーで同じ番号を背負い、その後、監督として自ら森島に背番号8を託した、ネルソン吉村を忘れてはならない。
 67年、JSL初の外国籍選手としてヤンマーに加入した日系ブラジル人、ネルソン吉村は、その卓越したテクニックで日本サッカーに衝撃を与えた。ボールと

じゃれ合う「ネコ」と言えば、おなじみ吉本新喜劇・池乃めだかのギャグだが、その前はネルソン吉村の愛称だったのだ。釜本とのコンビでヤンマーの黄金時代を築き上げ、数々のタイトルを獲得。日本国籍を取得した後は、代表選手としても活躍した。Jリーグ発足後は、セレッソ大阪スクール・コーチ、さらにスカウトとしてサッカーの普及と若手選手の育成に力を注ぐ。近年、多くの才能を輩出しているセレッソの育成システムは、そのテクニック重視の指導法の賜物である。多くの選手から慕われていたが、03年、56歳の若さで急逝。直後のリーグ戦でゴールを決めた西澤は、天上を仰ぎ見て哀悼を捧げた。
 現在に至る日伯サッカー交流の扉を開いた大恩人の母国で開催される、今回のワールドカップ。スクール

出身の柿谷、直接スカウトされ入団した大久保は、心中ひそかに期するものがあるに違いない。中学生からセレッソの下部組織で育った山口は、代表ではネルソン吉村と同じ16番を付けている。日本がC組2位で勝ち上がって行った場合、準決勝は7月10日、ネルソン吉村の故郷、サンパウロで行われる。
(吉住公男=ラジオ番組制作)



新たなる出発点を迎えた岩谷時子賞


 昨年秋に作詞家の岩谷時子さんが97歳で天寿を全うされてから初めての岩谷時子賞の授賞式が、過日、大手町のパレスホテルにて行われた。会を運営する岩谷時子音楽文化振興財団は渡

邊美佐氏、朝妻一郎氏、松岡功氏ら、音楽界や演劇界の諍々たる面々が理事として名を連ねており、その中心的存在である草野浩二さんの御厚意で毎回出席させていただいている。昨年同

様、本誌同人の吉田宏子氏、今年は編集長の濱田氏も一緒。列席者が業界の偉い方ばかりで少々気後れしてしまう会ではあるが、岩谷先生とは少なからずご縁もあって図々しく参加しているのだ。平成22年に始まり、今回が5回目で、今年は3月に同所でお別れの会が催されてから間もない式となった。以前のように岩谷氏自身が受賞者達とともに記念写真に収まる場面がもう見られないのはなんとも淋しい。しかし、毎回プレゼンターを務められていた八千草薫さんが竹下景子さんにバトンタッチされ、会場も帝国ホテルから移行されるなど、第5回にして大きな変革を迎えることとなり、故人を偲ぶ意味合いも加わって今後ますます重みのある賞になってゆく気がする。
 授賞式では、草野氏、作曲家の川口真氏、都倉俊一

氏の選考委員お三方が紹介された後、まずは若い才能を援助する〝ファウンデーション・フォー・ユース〟がソプラノの藤井冴さんに。ステージで披露された美声は安定感があり、歌っている表情もなかなかにチャーミング。実力と共にルックスも兼ね備えたオペラ界の逸材と見受けられた。続いて特別賞の八千草薫さんの名が呼ばれる。これまでと立場が逆転し、賞を受ける側として登壇した大女優はいつものように奥ゆかしい微笑みで会場中の空気を和らげながらのご挨拶。任を引き継いだ竹下景子さんはやや緊張気味で初プレゼンターの役目を果たしていた。奨励賞は、活躍目覚ましいStarSが受賞。これからのミュージカル界を背負ってゆくであろう、井上芳雄、浦井健治、山崎育三郎の3大プリンスによるユニ

ットに賞が与えられた意味は大きい。無理に着飾らない初々しい謝辞にも好感が持てた。岩谷先生からすれば曾孫の世代であろう。天上から眩しい気持ちで眺めておられたに違いない。 
 そして第5回岩谷時子賞は、「題名のない音楽会」の司会もすっかり板についてきた佐渡裕氏に授賞された。これまでは由紀さおりさんやユーミンら歌手が多く、指揮者の受賞は初めてとなるが、〝音楽文化の向上・普及のために、その活動において功労のあった人物・団体に栄誉をあたえるとともに、奨励・振興に寄与することを目的〟とした同賞に相応しく、会見では「音楽の喜びをたくさんの人に伝える。決して敷居の高いものではなくて、大きな感動が身近にある。オーケストラは最大の人数で作る創造物なので、その面白

さをたくさんの方に伝えていくのが大きな役目であるということを感じた。賞をしっかり受け止めていきたい」と語っていた。審査委員を代表して都倉氏が総評を語って授賞式は無事終わり、レセプションへと移行。和やかな場が持たれたのは例年の如し。和田倉の堀端を一望出来る美しい眺めを満喫しながら、間近で受賞者達のスピーチを聴く。かつてのパレスホテルも趣があったが、新しくなった建物も居心地がいい。都会のオアシスに身を委ねながら、岩谷先生の温かい眼差しを思い出すやわらかな時間を過し、会場を後にした。偉大なる作詞家・岩谷時子が遺した作品の数々はこれからもずっと愛聴・愛唱され、賞も今後ますます発展してゆくことであろう。
(鈴木啓之=アーカイヴァー/撮影:吉田宏子)



演奏者推測のススメ 3


 今月も引き続き「ソフトロック・ドライヴィン」シリーズからピックアップします。同シリーズの中から、CBSソニー(現:ソニー・ミュージックエンタテインメント)の音源をコンパイルした『ソフトロック・ドライヴィン 美しい誤解』(ソニー・ミュージック)を取り上げましょう。
 今回は編曲家に注目しな

がら推測していこうと思います。村井邦彦「朝・昼・夜」(69年)、ヴィレッジ・シンガーズ「心の泉(69年)」などは、村井邦彦の編曲です。60年代末の村井氏のレコーディングに参加していた主なベーシストは、江藤勲、鈴木淳、岸部修三(現:岸部一徳)などです。「朝・昼・夜」と「心の泉」では、これぞ江藤氏といえ

るオレンダー(江藤氏のオリジナル・ベース)・サウンドを聴くことができます。ヴィレッジ・シンガーズには、笹井一臣がベーシストとして在籍していましたが、レコーディングではスタジオ・プレイヤーがプレイした曲も見受けられます。その「心の泉」は、本コンピレーション収録曲で最も江藤氏のトーンが際立っているテイクです。2拍4拍目にスネアが入る普通のエイトビートとはちょっと違ったユニークなパターンのドラムスは石川晶と推測されます。
 ヴィレッジ・シンガーズ「ウィズ・ユー」(69年)、フォーリーブス「歌うことは素晴らしい」(70年)、ハイソサエティー「世界へジャンプ!」(70年)などは、三保敬太郎の編曲です。70年代前後の三保氏のレコーディングに参加していた

主なベーシストは、江藤勲、寺川正興、鈴木淳など。「ウィズ・ユー」は江藤氏っぽいトーンですが、鈴木氏の可能性も捨て切れません。コードのルート弾きが中心で、これぞといったフィルやフレーズが出てこないため、推測が難しいテイクです。「歌うことは素晴らしい」は、おそらく鈴木氏と推測されます。セーノ(一発同時録音)でレコーディングされたと思われ、テンポ・チェンジなど演奏者全員の息が完全に合った素晴らしい演奏です。「世界へジャンプ!」のハイソサエティーには、杉征夫が(後にリューベン&カンパニー)ベーシストとして在籍していますが、このグルーヴ感はスタジオ・プレイヤーによるものです。おそらく寺川氏と推測されますが、鈴木氏の可能性も捨てきれません。ベースが鈴木

氏だったら、ドラムスは当時よくコンビを組んでいた猪俣猛でしょう。思い切りニュー・ロックなギター・ソロも気になります。当時、猪俣氏が率いていたサウンド・リミテッドのギタリストは、川崎燎&神谷重徳から水谷公生にメンバー・チェンジしたばかりです。ジャズ・プレイヤーでは出せないワイルドな弾きっぷりは(若干ピッチ外していますが、逆にそれがロックならではの初期衝動を感じさせます)、おそらく水谷氏と推測できます。
 本コンピの目玉ともいえる名曲、リバティ・ベルズ「幸せがほしい」(74年)は、樋口康雄が編曲を担当しています。当時の樋口氏のレコーディング・メンバーはほとんどクレジットされていないので推測しにくいのですが、ハイハット・ワークからドラムスは田中

清司と推測されます。となると、当時田中氏とコンビを組むことが多かった武部秀明がベースと推測でき、言われてみれば確かに武部氏っぽいグルーヴを持っています。
 印象的な鍵盤は栗林稔か渋井博だと思われますが、納得できる決め手らしい決め手がありません。この辺になると筆者の感覚になってしまうので、なかなか文章で説明するのは難しいものがあります。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)



Espace Biblio+月刊てりとりぃ共同企画
手塚治虫「フィルムは生きている」(国書刊行会刊)刊行記念

和田誠×古川タク アニメーション上映会


 国書刊行会より6月末に刊行される手塚治虫の名作「フィルムは生きている」。それを記念して同書の装幀を手掛けたイラストレーターの和田誠と解説を執筆したアニメーション作家の古川タクが、自作アニメーションを持ち寄って上映、トークを繰り広げるスペシャル・イベント。ここでしか観られない貴重な作品の上映をはじめ、手塚漫画や国内外のアニメーション映画の話まで、何が飛び出すかは当日来てのお楽しみ。*当日は本イベントのために和田、古川の両氏による描き下ろしオリジナル・ポストカードをプレゼント。

[日時]2014年6月28日(土)15:00〜16:30(14:30開場) [参加費]1,500円(当日精算) [予約制]メール info@espacebiblio.superstudio.co.jp または電話(Tel.03-6821-5703)にて受付。 ●メール受付:件名「6/28 和田氏×古川氏トーク希望」にてお名前・電話番号・参加人数をお知らせ下さい。おって返信メールで予約完了をお知らせいたします。 ●電話受付:03-6821-5703(月→金11:30→21:00/土11:30→20:00) ●定員 : 70名 [会 場]ESPACE BIBLIO(エスパス・ビブリオ)地図→ http://goo.gl/maps/uIPqv/

★てりとりぃ×宇野亜喜良 コラボレーショングッズ 第3弾★

 先日通巻50号をむかえたフリーペーパー「月刊てりとりぃ」。50号を記念して、2014年オリジナルグッズを作成しました。若干数ではありますが、ご希望の方にお分けします。数に限りがありますのでご注文はお早めに!

「てりとりぃ」オリジナルキューブ BOX入りマグカップ+ブックカバー(セット販売のみ)
■正方形型のマグカップは、3面に書き下ろしイラストをプリント(写真をクリックすると絵柄が拡大表示されます)キューブBOXには「てりとりぃ」の英字ロゴがプリントされています。そしてブックカバーは生成り素材にプリントした文庫サイズになります。■セット販売価格 5,000円(送料別)

 ご購入を希望される方は、territory.tvage@gmail.com まで「オリジナルグッズ購入希望」と件名に表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内に折り返し返信メールを送ります。なお限定品につき品切の場合はご購入出来ない場合があります。*別途送料は発送方法によって異なります。詳しくはお問い合わせ下さい。