2014年9月19日(金)

ヒトコト劇場 #48
[桜井順×古川タク]








復刊ドットコムより「ぬいぐるみ殺人事件」が遂に復刊!!


 先月「ぬいぐるみ殺人事件」が復刊ドットコムから刊行された。私が80年代に編集人をしていたミニコミ「漫画の手帖」で連載したリレーマンガで、第1回の新井素子&ふくやまけいこから、とり・みき、吾妻ひでお、伊東愛子、中山星香、高橋葉介、かがみあきら、早坂未紀、出渕裕、水縞とおる、ゆうきまさみ、魔夜峰央、沢田翔、粉味、豊島U作、火浦巧&愛田真夕美、最終回しりあがり寿という超豪華メンバーがラインナ

ップ、86年に増刊で一度まとめたが瞬時に売り切れ、その後その本はプレミア価格になっていたという。
 同時に87年、学園祭で公衆の面前でマンガを合作するというライブコミックの「宇宙家族ロビンさん」も収録にこぎつけた。原作はしりあがり寿、絵は花輪和一、蛭子能収、根本敬、マディ上原、田中雅人、表紙がスージー甘金とこれまた超豪華版。しりあがりさんに頼まれメンバーを紹介したので、関係作といえる。

作品の性格上、それぞれの作家で再録もできず、これが全て初の単行本化なので、是非とも本書で楽しんでいただきたい。
 現在、マンガを中心に、アニメも含め、多くの企画を同時進行している。最終決定まで行っていないので、公表できないが、決まっているものでは10月に吾妻ひでおさんの「チョッキン」を復刻する。かつて秋田書店で、4巻もので単行本化されたが今は絶版、吾妻さんがSFへ行く直前のギャグマンガで、サブキャラではさんぞう、不気味、ナハハの3大キャラが既に登場、ヒロインの絵美ちゃんは文句なしの美少女、吾妻ファンなら必読のマンガだ。肝心なセールス・ポイントは単行本未収録が10編も入った完全版であること。毎回読切形式だからできたことだ。

 今後計画している復刻はやはり単行本未収録が多数あり、1冊につき未収録が1編のようなものは作らない。
 さらに吾妻ひでおは単行本未収録作品だけを集めた究極の単行本も企画中。なにしろ私は76年から78年にかけて、大学をサボッて、ありとあらゆる古書展に並び、古本屋廻りは日課、そしてつぶれた貸本屋をさがして遠征など、マンガに全てを捧げていた時代を過ごしていた。
 もちろん吾妻ひでおも集めていて、それぞれライバルがいたので、デパートのエスカレーターを駆け上がるのが早いのか、エレベーターや階段の位置など下見をしていたほど。価値ある復刻しかしないので、是非、お楽しみに。
(佐野邦彦=VANDA編集人)
初出:月刊てりとりぃ#53 /2014年8月号掲載「LOST WORLDへの案内(第40回)」




連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】その12
言葉ではうまく言えないルイ・プリマの素晴らしさ

 フングリダズングリ、ベイババオーボーイ、バリリバ、スティリバ、ホーホーホホウホウ……。
 この意味不明でキテレツな言葉は、ルイ・プリマがライヴ・アルバム『ラス・ヴェガス・プリマ・スタイル』の中で披露しているスキャットである。スウィング・ジャズとロック&ロールを混ぜたようなリズムにズンチャ・ズンチャとのってしまい、思わず口をついて出た言葉である。
 彼のスキャットは、ジャズ・シンガーたちのクールなスキャットとは一味も二味も違う。この可笑しな言葉を言えるもんなら言ってみろ、という観客への挑戦なのだ。会場のお客たちはプリマがスキャットで発した言葉を必死に笑いを堪えながら、一語一区間違えないように繰り返して歌う。プリマも、自分が発したキ

テレツな言葉を観客がしどろもどろになりながら真似ることに、必死に笑いを堪えながら、スキャットで次の言葉を投げつける。こうやって、笑いの渦が巻き起こっていく。心が通じたときの《言葉ではうまく言えない感じ》が会場を包んでいくのだ。
 「言葉ではうまく言えない」、「なんとも言いよう

のない感じ」などは、感想を伝える表現としては便利なような、卑怯なような。ピッタリくる言葉が見つからないときは、いろんなところから引用してしまう。その借りてきた言葉はどうやって返したらいいのだろう? こんな風に言いながらだろうか? 「お言葉を返すようですが……」
 ルイ・プリマは肉体的、

活劇的な明るさで、このライヴを存分に楽しませてくれる。スタンダードの「ハニーサックル・ローズ」と「ゼム・ゼア・アイズ」をメドレーにして一気にやっつける。キーリー・スミスにしっとりと歌わせた後、プリマの登場で一気にテンポ・アップする「エンブレイサブル・ユー」。ワイルデストなバック・バンドをまとめるサム・ビューテラが歌うジャンプ・ナンバーの「グリーン・ダラー・ビル」など、言葉ではうまく言えない魅力が満載だ。
 締め括りに登場するのは「トゥー・マーヴェラス・フォー・ワーズ」。この曲は言葉をテーマにして言葉遊びをしているジョニー・マーサー作の歌詞がおもしろい。褒め言葉をマーヴェラス(素晴らしい)、グロリアス(輝かしい)、グラマラス(魅惑的な)、アモ

ラス(艶かしい)と韻を踏んで選んでいる。そして、「あなたはとっても素晴らしすぎるから、分厚い辞書にもふさわしい言葉はないんだ。だから、ぼくは小鳥からラヴ・ソングを借りて来た。あなたはとっても素敵すぎる。言葉では言い尽くせないくらい、素晴らしすぎるんだ!」と歌われている。

 ルイ・プリマは素晴らしすぎる。ゆったりしたテンポで、しっとりと歌われることが多いこの曲をこんになにもハッチャキなスピードで、スウィングさせるんだから! ほんとに素晴らしすぎる。こんな音楽に出会ってしまったら、言葉を失ってしまうよ。
(古田直=中古レコード店「ダックスープ」店主)
●写真上 ルイ・プリマ/キーリー・スミス『ラス・ヴェガス・プリマ・スタイル』 おしどり夫婦のふたりらしい微笑ましいジャケット。しかし、ふたりは10年足らずで破局をむかえてしまった。 ●写真下 ビックス・バイダーベック自伝映画『情熱の狂想曲』サントラの10インチLP。ドリス・デイが歌うバラードの「トゥー・マーヴェラス・フォー・ワーズ」はまさに絶品。




企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html

特集上映『ジャック・ドゥミ、映画の夢』
会場:アンスティチュ・フランセ東京
会期:2014年9月13日(土)〜9月26日(金)
詳細⇒http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1409130926/