2014年10月10日(金)

ヒトコト劇場 #49
[桜井順×古川タク]








特集「Le monde enchanté de Jacques Demy」[6]
ジャック・ドゥミが共同脚本・実写パートを監督した「ターニングテーブル」

 先頃、国内盤ブルーレイが発売されたポール・グリモー監督作品『王と鳥』(80年公開/52年公開の『やぶにらみの暴君』改作)には、近年撮影されたドキュメンタリーや短編作品など豊富な特典映像が収録されている。いずれも見所満載だが、わけても注目すべきはジャック・ドゥミがグリモーとの共同脚本と実写パートの監督を務めた『ターニングテーブル』(88年)である。

 これはグリモーがスタジオに入り、自ら創造したキャラクターらを相手に自作の短編を次々と紹介していく趣向のオムニバス作品で、取り上げられた短編十作品のうち四本にグリモーの盟友ジャック・プレヴェールが、同じく四本に『肉体の悪魔』(47年)や『禁じられた遊び』(52年)で知られるジャン・オーランシュが脚本で参加している(劇中で紹介される短編の音楽はマルセル・ドラノワ、ジ

ャン・ウィエネルやジョセフ・コスマ、ジャック・ルーシェ、ヴォイチェフ・キラールら)。
 その大半は原盤が失われたために摩耗したフィルムから起こされたものだが、いずれも奇想天外なアイディアに溢れ、『小さな兵士』(47年)や『音楽狂の犬』(73年)などには、戦争や権力、そして搾取に対する怒りが込められている。
 本作がグリモー作品を複数楽しめる彼の集大成にして遺作として貴重なのは勿論のこと、同時にジャック・ドゥミ映画に魅せられた者にとっては、二重、三重の意味で貴重な作品であるのは明白だ。ともすればドゥミのフィルモグラフィから漏れがちな作品だが、共同脚本を手掛けた点からしてもその関わりは深く、単独監督作品でないというだけで見落とすのはあまりに

惜しい。グリモーと同様に作品数の少ないドゥミが撮った貴重な一本として観ておいて損はないだろう。ちなみにドゥミは、若き日にグリモーのスタジオでアシスタントを務めており、そこで盟友ベルナール・エヴァンと共に短編アニメーション映画を監督、そのさなか処女短編ドキュメンタリー『ロワール渓谷の木靴職人』(55年)のシナリオを書き上げている。
 本作『ターニングテーブル』は『パーキング』(85

年)と遺作『想い出のマルセイユ』(88年)の狭間に作られた作品で、ドゥミにしてみれば、心情的に原点回帰といった意味合いもあっただろう。
 ドゥミ・ファンにとっての見所は、『モデル・ショップ』(69年)以来、およそ二十年ぶりに彼がアヌーク・エメを撮ったという点で、しかも彼女はここでわずか一言だが、今や〈シネマテーク・フランセーズ〉にたった一本だけプリントが保存されているが非公開

のままの『やぶにらみの暴君』に登場する羊飼い娘の声を演じている(現在市場に出回っている『やぶにらみの暴君』は、本編の一部を欠いた英語吹き替えの海賊版で、改作『王と鳥』ではその役をアニエス・ヴィアラが担当したためアヌーク・エメによる羊飼い娘の声はここでしか聞けない)。
 また、本作でグリモーと共に進行役を務める小さな道化師役をドゥミの息子マチューが演じている点も注目に値する。この道化師は

『王と鳥』で追加された登場人物で、グリモーお気に入りのキャラクターである。かように本作は、ドゥミ・ファンであれば決して見逃してはならない作品のひとつというわけだ。
 なお、国内版ブルーレイ発売に際しては、和田誠、古川タク、加藤久仁生の三氏による寄稿を掲載したフライヤーが作成され、現在、京橋のフィルムセンターで開催中の「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」展の会場をはじめ各所で配布中。今月末発行の「月刊てりとりぃ」(56号)にも投げ込みの予定だ。
(濱田高志=アンソロジスト)



島田歌穂&島健「いつか聴いた歌」を聴いて


 先日、知人から勧められて仏デュポン家のスパークリング・アップル・ジュースを入手した。既に御存じの方も多いと思うが、カルバドスで有名なデュポンが作ったアップルタイザーで、ノンアルコールにもかかわらず、その芳醇な香りとテイストはハード・ドリンカーをも虜にするという。実

際に試したところ、ジュースというよりはシャンパンのクオリティに近く、一口で虜になった。正に、カルバドスの如く熟成された香りを十二分に楽しむ事が出来るのだ。その芳醇な味覚を楽しみながら、音楽を聴くのが最近の至福である。ここ数日、愛聴しているアルバムが、島田歌穂&島健

の「いつか聴いた歌」だ。
 この「いつか聴いた歌」というタイトルは、イラストレイター和田誠のスタンダード・ナンバーに関する名著だが、長らく絶版状態にあった。しかし、昨年の10月に本書の復刊が決定、増補改訂版として愛育社より発売された。そして、昨年2月と今年の3月に同タイトルのコンピレーション・アルバム「いつか聴いた歌~スタンダード・ラヴ・ソングス」と第二集である「いつか聴いた歌②~ソング・アンド・ダンス」(共にソニー)も発売になった。フランク・シナトラ、エラ・フィッツジェラルド、ドリス・デイなどの名唱が収録されたこのアルバムは、復刊された同書を副読本として聴くと、スタンダードの素晴らしさをより楽しむ事ができる。この一連のプロジェクトの企画・プロデ

ュースは本誌編集長である濱田高志、全ての監修・解説・訳詞・アートワークは和田誠である。
 このプロジェクトの新作とも言えるアルバムが10月1日に発売になる。それが、島田歌穂&島健による「いつか聴いた歌」(ユニバーサル)だ。実はこのアルバムに先駆けて、昨年の7月と11月に池袋コミュニティ・カレッジにて、トークショーとライブが行われている。本イベントは、和田誠がスタンダードを解説し、島田歌穂と島健らがその曲を生演奏するという贅沢な企画であった。そのイベントのエッセンスを一枚のCDに収めたのが本作とも言える。12曲の厳選されたスタンダードが収録され、ヴォーカルとピアノというシンプルな構成だが、舞台で鍛え上げた類い稀なヴォーカルとリリカルかつ情感豊

かなピアノの旋律が、極上の大人の空間を創り出している。
 過日、彼女のインタビュー記事を読んでいたら、そのジャズ・ボーカル・スタイルは、音楽家である父君のアドバイスにより、当初ドリス・デイのレパートリー「二人でお茶を」等を手本としたという。彼女には、ハリウッド・テイストと言ってもよい白人女性ヴォーカルの正統派スタイルが受け継がれていると常々感じていたのだが、そういう事であったかと合点がいった。本アルバムでも「マイ・ロマンス」「だけど素敵」等で、そのスタイルを十二分に楽しむ事ができる。一方で、キュートなスキャットが印象的な「四月の想い出」や、島健のヴォーカルも聴けるコミカルな「眠そうな二人」では、エンターテイナーとしての違った一面も

見る事が出来る。
 なんと言っても、白眉なのは二人の息の合った絶妙なコラボレーションだろう。94年からデュオ・ライブを始めたというから、今年で20年。ある種ライフワークと言ってもいいだろう。8月に再発された、彼らの原点とも言える94年のアルバム「カホ・シマダ・ウィズ・ケン・シマ〜デュオK&Kイン・バラード」(キング)を久しぶりに聴いたが、日本語によるオリジナルとカヴァーという違いはあれど、二人の世界観はこの20年間まったくぶれていないという思いを強くした。二人の作詞作曲である「月明かり」という楽曲が2曲目に収録されているが、その透明感のある美しさに思わず息を飲む。今作でも、楽曲が本来持っている美しさを自然に引き出すマジックをお二人は持っている。

 今年は、島田歌穂デビュー40周年。デビューから今までの初のオールタイム・ベスト「マイ・グラディテュード〜オール・タイム・ベスト」やキング、ユニバーサルからアルバムの復刻再発売もされている。島健も、アレンジ、プロデュース、音楽監督で多忙を極めていると聞く。島田歌穂、島健、それぞれの作品に触れている方は多くの方がいらっしゃると思うが、彼らのデュオの作品を未体験の方はまだいらっしゃるのではないか。是非、この機会に「いつか聴いた歌」に触れて頂ければと思う。そこには、あなたの「いつか聴いた歌」が必ずあることだから。
(星 健一=会社員)
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●島田歌穂ウィズ島健『いつか聴いた歌』ユニバーサルミュージックより発売中




企画展『ジャック・ドゥミ映画/音楽の魅惑』

会場:東京国立近代美術館フィルムセンター展示室(企画展)
会期:2014年8月28日(木)〜12月14日(日)
詳細⇒http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html

【作曲家ミシェル・ルグランとジャック・ドゥミ】
日程:2014年10月25日(土)
時間:3:00pm〜
場所:展示室ロビー(7階)
講師:濱田高志(音楽ライター、アンソロジスト)



高岡まつり2014秋 〜宝の島の歌姫たち〜

日時:2014年10月23日(木)OPEN: 19:00/START:19:30
会場:渋谷TSUTAYA O-nest/料金:前売2500円/当日3000円
出演:Charisma.com/水曜日のカンパネラ/おおたえみり
チケット:イープラス、ぴあ、ローソン、O-nest店頭 お問い合わせ:O-nest(03-3462-4420)