2015年3月6日(金)

 
「80年代しりとりコラム」(泉麻人著)編集後記


 今から30年前の1985年4月1日、バイト先の休憩室の隅っこでつけっぱなしになっていたテレビから流れてきたチェッカーズ「あの娘とスキャンダル」。続いて始まったその日が初回放送だった「夕やけニャンニャン」。その番組を見ながら、「時代が変わりつつあるな」とぼんやりと思ったことを昨日のことのように覚えている。「夕やけニャンニャン」から放たれるパワーとテンションの高さは今まで自分が見ていた

テレビ番組とは異質なもので、妙な居心地の悪さを感じたものだった。それから一カ月も経たない4月25日、久米宏が長年にわたって出演していた『ザ・ベストテン』の司会を降板した。このとき、自分が親しんできた歌謡曲全盛時代の終焉、そして夢の時間が終わってしまったような淋しい気持ちになったことを覚えている。看板を失った翌週からの『ザ・ベストテン』は別の番組のようであった。
 その5年前の1980年

は松田聖子のデビューと山口百恵の引退が重なって、国民的アイドルのバトンが受け渡されたことに象徴されるように、時代の転換期と言われている。そのほか、YMOのブレイクやジョン・レノンの死、王貞治の引退と長嶋茂雄辞任なんかのニュースも大きく影響している。しかしながら、その後一気に世の中がバブル景気に突入していく1985年こそ、時代の大きな節目だった気がしてならない。それを予見していたのが、ブラウン管の向こうから騒いだもの勝ち的な高揚感を醸し出していた「夕やけニャンニャン」だったように思われた。変わりゆく時代の空気をひしひしと感じたわたしは当時10代だったにもかかわらず、これ以降のテレビ番組やヒット曲はもちろん、流行といったものに一切興味がもてなくなり、

バブル景気の恩恵をひとつも被ることもなく、時代との接点を断ち切った。興味の対象は過去の事物と海外のインディー音楽に移行していった。
 そんなわたしが30年経った今年、「80年代しりとりコラム」(泉麻人著)という書籍の編集を手掛けた。この本は泉麻人さんが2007年から2012年にかけて「パチスロ必勝ガイドNeo」で連載していたコラムをまとめたもので、タイトルどおりしりとり形式で、例えば留守番電話→笑っていいとも!→モスコミュール→ルービックキューブという具合に60個の流行事物を紹介している。さすが、この手を語らせたら右に出る者はいない時代の考証人。親しみやすい文体で読み手に事物を把握させ、自身の体験を織り交ぜながら、ときに切れ味鋭く切れ

込み、キレイに腑に落としている。たとえすでに語りつくされているような事物であっても独特の見地で検証することにより、これまでとは違った次元で深く味わうことが出来るのだ。また当時を経験していない人でも、読み終わる頃には「ウーロン茶って80年代初めから一般的になったらしいよ」など、80年代に関するいっぱしの薀蓄を他人に話したくなる気分にさせるに違いない。これ1冊あれば80年代がどういう時代だったのかが一通りわかるという意味では資料性の高い書籍でもある。
 かくいうわたしも前述したように85年以降の流行をほぼ無視していたため、今回の泉さんの原稿を読んで初めて知ることも多かった。ランバダ、マハラジャは何だったのかを貴重な体験者の証言として読むことが出

来た。それが今後役に立つのかはさておき。冒頭で触れたチェッカーズについて泉さんは「Jポップの源となるアーティスト色の強いアイドルだった」と書いている。そうか、当時のわたしは歌謡曲全盛時代の終焉をチェッカーズという存在を通して見ていたのだ。30年経ったいま、自分が手がけた書籍でようやく腑に落とすことができた。
(竹部吉晃=編集者)
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●2007年から2012年にかけて雑誌「パチスロ必勝ガイドNEO」(白夜書房)で連載されていた「泉麻人の80年代流行物しりとり」をまとめたコラム集。しりとりコラムのスタイルをまとった笑えて泣けてタメになる80年代文化論。「80年代しりとりコラム」泉麻人・著/ファミマ・ドット・コム刊/発売中



居酒屋散歩10《千川・安曇野》


 今回は豊島区・千川のお店。ちょっと盛り場から離れている蕎麦屋だが、居酒屋としてもいいお店。
 地下鉄・千川駅の近くには横山光輝さんの事務所があり、その帰りに立ち寄ったのが最初だ。横山先生は10年ほど前にお亡くなりになっていて、息子の輝年さんが作品の管理をしている。横山先生は昭和30年代に雑誌「少年」に「鉄人28号」の連載をし、手塚治虫「鉄腕アトム」と人気を2分し一躍人気作家になった方。

その後「伊賀の影丸」「魔法使いサリー」「ジャイアント・ロボ」などのヒット作を次々に発表し、後には「水滸伝」や「三国志」などの中国物の名作を残している。私がお付き合いしたのは古い作品の復刻で、「鉄人28号」や「伊賀の影丸」など代表作を始め、マイナーな単行本未収録作品まで多くの作品を復刻してきた。夕方に打ち合わせが多かったので、その帰りによく「安曇野」に通ったものだ。

 先日久しぶりに事務所に行くことがあり、打ち合わせの後で印刷所の営業マンM氏と待ち合わせ。雪の降った日で寒かったが、ほぼ同時に着いたので、すぐ2人で「純手打ち」と書かれた暖簾をくぐって中に入った。M氏は最近転職をして同業他社に移ったが、以前の社では横山担当だったので「安曇野」はおなじみだ。入ると天麩羅のいい香りがしてきた。テーブル席がいくつかあるのだが、こちらは腰を落ち着けて酒を楽しもうということで、いつも小上がりの座敷を利用する。まず最初は「ほろ酔いセット」。これは飲み物1杯のほかに、お通し、お刺身,天麩羅、そしてせいろがセットになっていてお得感たっぷり。お刺身と天麩羅でビール3杯はいける。その後はすぐに、せいろに行かずほかの肴を頼む。飲み物

も、ビールから日本酒に。
 M氏は特に日本酒が好きなので、こちらも彼に合わせて「利き酒セット」を注文。これは並々と注がれた3種類のコップ酒が出てくるので満ち足りた気分になる。季節によって酒の銘柄が変わるが、いつもそれなりのレベルのものが選ばれているので、何が出てくるかの楽しみもある。
 日本酒の後に再びビールにして、名物のかき揚げを頼んだ。これはジョッキより大きい揚げ物だが、小エビのほかに玉ねぎなど野菜も入って、サクサク感があり、ビールにぴったり。この日は色々なものをいただいてきたので、さすがに一人では無理で、2人で分けてビールの肴にした。
 この店は、内部に天麩羅カウンターがあり、そこに座って揚げたての天麩羅で一杯飲むことも出来る。な

にせ天麩羅は揚げた瞬間が一番おいしいという。揚げた目の前でいただくのは贅沢というもの。しかも値段は居酒屋価格でリーズナブル。次回はカウンターに座ってみようと思っている。
 かき揚げの後は軽いつまみで焼酎のお湯割りをいただき、〆のせいろを待つことにした。蕎麦は、信州・安曇野産のそば粉を使ったもので、風味が程よく感じられ、しかものど腰の食感が絶品。蕎麦を手繰り終えると、満足感一杯になる。

勘定の際に「蕎麦かりんとう」をお土産にし、カバンに入れながら外に出た。
 雪はやんでいたので少し歩き、近所のスナックへ。「安曇野」のすぐ並びに外車のディーラーがあり、これがスナックの店と同じ名前「アウディ」。ここで古い歌謡曲を聞きながらウイスキーで小一時間。帰り際のM氏のオヤジギャグに、思わずクスッとしてしまった。彼が熟女ママに言ったのは、「また、アウディ」。
(川村寛=編集者)



てりとりぃアーカイヴ(初出: 月刊てりとりぃ#12 2011年2月26日号)
3番テーブルの客

 さまざまなドラマがDVD化されている昨今ですが、いまだになかなか見られない作品は多々あります。96年秋から97年春にかけてフジテレビの深夜枠で放映された『3番テーブルの客』もそのひとつ。かの三谷幸喜脚本作品であるにも拘わらず、ソフト化されていないのはなぜか? それは普通の連続ドラマとは異なる超実験番組だったから。同じストーリーを基に、24人の演出家がそれぞれ独自のアレンジを施して腕を競い

合うという、実に興味深い企画だったのです。
 大筋はこんな感じ。元は音楽界で仕事をしていたカフェのマスターが主人公で、ある日向かいの劇場で公演中の元妻が店を訪れます。彼女は離婚後に成功してスター歌手・ビビ萩原になっているのですが、彼はそのことを知らず、客のフリをしてまだ音楽を続けていると嘘をつく。しかも今公演中のビビ萩原のバンドマスターとして共演していると見栄を張ってしまう。本当

のことを言えなくなり困惑する彼女。やがて本物のバンドメンバーが店に来たり、大歌手のアンドリュー堺が訪れたりして事態はさらに混乱し……。カフェでの絶妙な駆け引きが描かれた、いかにも三谷サンらしい大人の洒落たお話でした。
 演出家によっては大幅に改変されてしまう場合もありましたが、概ね脚本に忠実な回の方が出来が良かった様です。例えば第1回の河野圭太氏の演出。さすがに『古畑任三郎』や『王様のレストラン』などの三谷作品を手がけてきたエース監督だけのことはあります。主人公は生瀬勝久、ビビ萩原は鳥越マリ、アンドリューは岡田眞澄という布陣。ちなみに主人公とビビ役が毎回変わる中、アンドリュー役だけは重複し、ファンファン岡田は全24回中11回も演じました。村井国夫が

3回登板したほか、最終回の蜷川幸雄演出作品で植木等が演じたのも印象に残るキャスティングです。
 伊丹十三や井筒和幸ら、映画監督チームも参加しており、中でも小日向文世が主人公に扮した和田誠監督の回は、脚本を尊重した手堅い演出で、三谷との名コンビぶりが発揮されています。放送終了後に某誌に載ったホイチョイプロダクションズの星取表では、河野氏のほか、若松節朗、星護、石坂理恵子の各氏の評価が高く、テレビディレクターの演出回が良かったと書かれていました。こうして並べるとどうしても優劣がハッキリしてしまうのも発売されていない理由のひとつでしょうか。しかしながら改めて全話を見返してみたいもの。DVD化を熱望する作品なのです。
(戸里輝夫=ライター)




私家版「宇野誠一郎の世界」濱田高志・編

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[執筆者]井上ひさし、黒柳徹子、横山道乃、中山千夏、堀絢子、恒松龍兵、井上ユリ、井上麻矢、武井博、橋本一郎、栗山民也、篁ゆき、井上都、高林真一、泉麻人、伊藤悟、田中雄二、加藤義彦、安田謙一、足立守正、高岡洋詞、千秋直人、江草啓太、田ノ岡三郎、向島ゆり子、橋本歩、熊谷太輔、鈴木啓之、濱田高志、里見京子

[新規取材&対談再録]田代敦巳、木村光一、宮本貞子、熊倉一雄、おおすみ正秋、柏原満、鈴木徹、山田昌子、金原俊子

[ご予約方法]ご購入を希望される方は、「てりとりぃ」編集部 territory.tvage@gmail.com まで、件名に「宇野誠一郎の世界購入希望」と表記の上メールにてお知らせ下さい。到着後3日以内にお支払い方法を記載したメールを送ります。*私家版につき、本書の書店販売は行ないません。

てりとりぃ×宇野亜喜良
コラボレーショングッズ 第4弾


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