てりとりぃ放送局アーカイヴ(2015年4月24日〜2015年5月8日分)

 前回「BOYS KEEP SWINGING」の聴き比べをやったのですが、今回はそのオリジナルに関するお話。1979年、ボウイのアルバム『LODGER(間借人)』収録のこの曲はボウイ&イーノ作のダンサブルなナンバーですが、実はギターがドラムを、ドラムがベースを、といったカンジでミュージシャンの担当をわざと入れ替えてヘンテコな演奏を録音した曲でもあります。そしてそのPVもかなりヘンテコなものでして、まずそちらからご覧下さい。(2015年4月24日更新分/選・文=大久)


David Bowie / Boys Keep Swinging (1979)

 死ぬ程カッコいいロック・シンガーがシャカリキに踊り歌うこの曲のPV。実はキモはその歌唱シーンではなくて、キモい3人の女装コーラス&踊り子さんの方でして。全てデヴィッド・ボウイ本人の女装です。「ゲイである云々はすべてフェイクでした」とカミングアウトしてから数年を経たのに突然この女装。しかもケバい女装。何考えてんでしょうかボウイ先生は。

David Bowie and Romy Haag

 そのタネ明かしです。76年ドイツに移り住んだボウイが夢中になったもののひとつに、ベルリンで最も有名だったキャバレー「CHEZ ROMY HAAG」がありました。ここはロミー・ハーグという欧州一有名な女装家タレントが運営するとても狭いナイトクラブですが、退廃的かつ享楽的、そして未来的な(そう、まるでルー・リード『ベルリン』の世界そのままのような)そのクラブにボウイは足繁く通いました。動画でボウイとこのクラブの関係を証言してるのは、写真家ミック・ロック、プロデューサーのトニー・ヴィスコンティ、そしてロミー・ハーグ本人。

show at Chez Romy Haag

 で、そのCHEZ ROMY HAAGにおけるショウの映像。これ、とても貴重なもので、全部で数10分しか残されていないようです。動画で歌い踊るのは、オーナーのロミー・ハーグ本人。彼女はこのクラブを80年代頭まで運営しましたが、その後はタレント業に転向、クラブは閉鎖されています。同クラブでは古典的な(ドイツ版シャンソンともいえそうな)ショウの他、奇抜さを売りにするあらゆるフリーク・ショウ(こんなのとか。笑)も披露されていたとのこと。

Romy Haag / Superparadise (1978)

 そのロミー・ハーグ嬢のシングル曲。ドイツのTV番組「MUSIKLADEN」出演時のライヴです。今の時代ならミッツ・マングローブ嬢の歌手活動とか、それ以前にはるな愛さんの世界的な活躍もあり驚きに値しないでしょうが、むしろロミー嬢の場合はカルーセル麻紀さんのソレに近いもの、と言えるのではないでしょうか(カルーセルさんの場合石原裕次郎氏と深い親交があったことも、ボウイ&ロミーのそれを彷彿とさせますもんね)。

Romy Haag / Walk On The Wildside (2010)

 冒頭紹介したボウイ「BOYS KEEP SWINGING」のPVは、ボウイがロミー・ハーグのクラブ・ステージングに影響を受けて、そのデカダンな世界観をマンマ踏襲・引用したものでした。70年代には実際にこの2人の熱愛報道がゴシップ誌を賑わせたりしましたが、実はボウイもロミー嬢ももっと遠い世界に思いを馳せていたのかもしれませんね。実は今も現役で女装家タレントとして活動しているロミー・ハーグですが、動画の曲は2010年発表の、ルー・リード「ワイルドサイドを歩け」カヴァー。



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「ONLY LOVE CAN BREAK YOUR HEART」。1970年発表の、ニール・ヤングの代表曲ですね。一説ではジョニ・ミッチェルと破局したばかりのグラハム・ナッシュのことを思いやって作った歌だとのことですが(余談になりますが、この曲は後にスティーヴン・スティルスもカヴァーを残しています)、今回はこの曲の聴き比べ。しかも女性ヴォーカリストのカヴァーのみに絞って集めてみました(2015年5月1日更新分/選・文=大久)


Jackie DeShannon / Only Love Can Break Your Heart (1972)

 ジャッキー・デシャノンの72年録音版。オリジナル同様の3拍子で始まりますが曲途中でカントリータッチの4/4に転調します。本作収録のアルバム『JACKIE』はアトランティック移籍第1弾で、プロデュースはアリフ・マーディン、アレンジはトム・ダウド。60年代後半からアイドル歌手からの脱皮を計っていた彼女ですが、アメリカン・ルーツのサウンドと共にその「脱皮」は本作で決定的となりました。

Mint Juleps / Only Love Can Break Your Heart (1985)

 英国インディーズの雄スティッフ・レーベルに所属した6人組女性コーラス・グループ、ミント・ジュレップスのデビュー・シングル曲はこのニール・ヤングのカヴァーでした。プロデュースで名前が記載されたドミニク・ブガッティという男性は、本名をフランク・ムスカーといい、シーナ・イーストンやジェニファー・ラッシュ、ベイビーズ(ジョン・ウェイト在籍)等の売り出しにも貢献した英国人プロデューサー。

Saint Etienne / Only Love Can Break Your Heart (1990)

 同曲のカヴァーで最も有名なバージョン。90年、セイント・エティエンヌによるグラウンドビート・カヴァーです。ヘヴンリーというインディー・レーベル発の曲ながら世界中でヒットを記録したこのバージョンは、プロデューサー(イアン・カット)宅のベッドルームで2時間で録音されたという逸話も残されています。その後この曲はアンディー・ウェザオールによるリミックス版もイギリスでヒットを記録しました。

Angie Hart / Only Love can Break Your Heart (2009)

 ちょっと時代が飛びますが、こちらはオーストラリア出身のシンガー、アンジー・ハート嬢によるカヴァー。彼女は90年代頭にフレンテ!という名のバンドのシンガーとしてデビュー(バンドは96年に解散。04年に一時的にリユニオン)しましたが、こちらはソロによる録音。いやー、しかし今でも麗しいですねえ彼女。
Rickie Lee Jones / Only Love Can Break Your Heart (2012)

 最後はリッキー・リー・ジョーンズのカヴァー。このカヴァーを収録したアルバムはプロデュースをベン・ハーパーが担当、渋々なバイオリンの演奏でデヴィッド・リンドレーも参加しており、素敵な猫ジャケ作品となりました。そう、この曲を聴いて工藤夕貴主演の「子供、ほしいね」という深夜TVドラマ(「やっまり猫が好き」の後番組で、前作に引き続き同じ猫が出演していた)を思い出す方も多いのではないでしょうか。


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 あ、お前この野郎来日ドタキャンしやがったなチクショウメ、とほんの少しだけ思いましたが(笑)、キャンセルされた来日公演も無事に振替公演決まりましたね、ジョニー・マー。ザ・スミスでギターを弾いていた80年代、間違いなく彼こそが世界中のギタリスト(ただしヘビメタ除く)の憧れ、時代を代表するギターヒーローでした。女の子みたいに小さくて細くて、クリーンでチロチロとアルペジオを爪弾く彼がギターヒーローだったなんて面白い話ですよね。今回はそんなジョニー・マーの課外授業特集です。(2015年5月8日更新分/選・文=大久)


Sandie Shaw and The Smiths / Hand In Glove (1984)

 実は後になってから「俺は女性アイドルの後でギターなんか弾きたくないよ」という男気R&R魂溢れる発言を残した事があります。それがサンディー・ショウのことを指しているのかどうかはちょっと分からないのですが、とにもかくにもザ・スミス全面バックアップで復活したサンディー・ショウ。動画はトップ・オブ・ザ・ポップス出演時のライヴ。
The Pretenders with Johnny Marr / Back On The Chain Gang (1988)

 ザ・スミスが解散したのが1987年。ジョニー・マーはこの時引退を考えたそうです。そんな彼にいち早く手を差し伸べたひとりがクリッシー・ハインド。前任のロビー・マッキントッシュがポール・マッカートニー・バンドへ参加するためにプリテンダーズを脱退したので、代役としてツアーに帯同しています。実はその直前にジョニー・マー本人もポール・バンドでのセッションに加わったことがあります。つまり、サー・ポールにはフラれてたことになりますね(笑)。

Stex / Still Feel The Rain (1990)

 ジョニー・マーはその後ザ・ザに正式加入、またサイド・プロジェクト(上記プリテンダーズへの参加やバーナード・サムナーとのエレクトロニック他)でも忙しい身となりました。そんな最中に参加したのがこちら。ステックスというハウス・ポップのユニット。いいですねえジョニー・マー先生。オマンチェ魂爆発、といわんばかりのオサレなルックスです。ステックスはザ・ザとレーベルメイトだったので実現したゲスト参加でした。
Crowded House with Johnny Marr / Moonage Daydream (2010)

 クラウデッド・ハウスのフィン兄弟とジョニー・マーはまさに文字通りの家族ぐるみの付き合いをしてるそうです。一時期、ニール・フィン、ジョニー・マー、それと各々の息子、という4人組バンドを結成したことがあるほどで(笑)。こちらの動画はクラウデッド・ハウスのライヴにゲスト参加したジョニー・マーが、なんと「月世界の白昼夢」を演奏するというトンデモ動画。
Johnny Marr on What's In My Bag? (2011)

 以前これのポール・ウェラー版を紹介したことがありますが、「レコード屋で買い物させよう」という人気配信番組の人気コーナー「WHAT'S IN MY BAG?」出演時のジョニー・マー。モリコーネのサントラ2枚(ただし彼はモリコーネの「ラウンジーな音楽は嫌いだ」とのこと)、ヒッチコック映画の音楽担当でおなじみバーナード・ハーマンのドキュメンタリーDVD、それからボノボ、ジョン・マクラフリン、ワイアー等のCDもお買い上げ。実はジョニー・マーは大のサントラ・ファンで、フィル・スペクター・サウンドやモータウン・サウンド、そして映画音楽のストリングス・アレンジから彼の自己流のアルペジオ・アレンジを編み出したという人でもあります。


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