2015年5月1日(金)

 
連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】その17
歴史的《発掘》によって盛り上がったディキシーランド・ジャズ・リヴァイヴァル

 40年代のアメリカでビーバップやスウィング・ジャズのムーヴメントほどではないがディキシーランド・ジャズ・リヴァイバルも注目されていた。それは音楽スタイルの再評価とともに《伝説のジャズメン》の発掘があったからだ。
 ディキシーランド・ジャズ・リヴァイヴァルはジャズ研究家ビル・ラッセルが『ジャズメン』という本に書いた記事から始まった。彼はその記事を書くために、10~20年代に活躍していた演奏家に話を聞いてまわった。取材を進めていくうちに、御大シドニー・ベシェ、クラレンス・ウィリアムスらが口を揃えるように「ニュー・オーリンズのことならバンクに聞け」と言う。しかし誰もバンクの苗字を覚えていない。もちろん居場所もわからなかった。ビルがルイ・アームストロン

グに会った時、バンクのことを訊ねると「バンク・ジョンソンのことだろ? 彼の演奏は素晴らしかったよ」と話した。
 ビルはバンクの住所を探り当て、手紙でやり取りをするようになり、少しずつ彼のことがわかってきた。バンクは19世紀末にニューオーリンズ・ジャズをはじめた伝説のバディー・ボー

ルデン楽団に在籍し、まだ少年だったルイ・アームストロングを指導したトランペッターだったというのだ。それと同時に彼は酒癖が悪く、トラブルを起こす人物でもあった。
 15年、彼はマフィアに脅迫されてニュー・オーリンズを離れ、31年には演奏中に乱入してきた男がバンドリーダーを刺殺す事件に遭

遇した。その時にバンクは前歯を折られ、引退してトラックの運転手をしていたという。
 バンクはビル・ラッセルに、トランペットを用意し前歯を直してくれれば昔のように演奏できると言い出した。そこでビルはバンクの要求に応え、バンドのメンバーを集めた。
 42年、バンクの初録音が行われた。ルイジアナの事件の時も一緒だったクラリネット奏者ジョージ・ルイスも一緒に復活して、メンバーに加わった。その後バンクは録音を続け、45年には、ブルー・ノートでシドニー・ベシェとともに録音した。このレコードが『歴史の再発見』として話題になり、ディキシー・リヴァイヴァルが大きなムーヴメントになったのだ。
 バンクは奇跡的に復活できたものの、歯の具合も悪

く、体調不良などもあり、昔のような演奏はほとんどできなかったようだ。そして48年に卒中を起こし、翌年亡くなってしまった。
 後の調査で、バンクはいくつかウソをついていたことがわかっている。彼は年齢を10歳も多くごまかしていて、あのバディー・ボールデンと一緒に演奏したことはなかった。きっと話が

大きくなるとは考えずに、熱心なビルに調子を合わせてしまったのだろう。
 もしバンクがいなくてもディキシーランド・リヴァイヴァルは起きていただろう。でも彼の復活劇が大きな話題になって、より良く《リヴァイヴァル》できたのだ。
(古田直=『ぼくはもっぱらレコード』発売中!)
●写真上 バンク・ジョンソン『The Last Testament Of Great New Orleans Jazzman』 47年に録音されたバンク最後の演奏を収録したLP。さて、演奏の腕前は? ●写真下 ウディー・アレンのディキシージャズ・バンドの名称『Bunk Project』はバンク・ジョンソンから命名されている。



有昌とチャーリーハウス


 並木橋の中華料理「有昌」と言うと「昔、良く行ったなあ」と答える御仁も多いのではなかろうか。かくいう私も90年代、とんねるずが贔屓にしている店として、その名を知った。しかし、当時は渋谷と恵比寿の間というアクセスの悪さで、行く機会を失っていた。そんな時、妹から誘いがあり案内してもらったのが最初だ。「しいたけそば」がおススメと聞き、それを食した。あっさりとした塩味のスー

プに細麺がぴったりあい、行けば毎回そればかり食べていたが、それでも、アクセスの問題で、意外と通えていない。
 しかし2011年7月、会社が渋谷区東1丁目に移転し、並木橋が目と鼻の先になったため、始終通う事になった。以前と、店の内層や作りが変わったものの、味はまったく同じ。麺類を中心に、しばし数多くのメニューを堪能し、新たな味の発見もした。「塩もやし

そば」は、改めてその美味さに気が付いたメニューの一つだ。にんにくが効いた辛いスープが、新陳代謝を促進し、食した後は一汗かいた爽快感さえ生まれる。しかし、夢はいつまでも続かない。
 2013年4月、「一時閉店」の貼り紙がしてあり、店は忽然と消えた。現在はすでに別の建物になっており、この場所での再開はもうありえないだろう。
 渋谷のラーメンといえば、もう一店思い出すのが、公園通りの上にあった「チャーリーハウス」だ。こちらは2007年に閉店してから既に10年近く経つので、知らない人も多いかもしれない。湯麺とかいて「トンミン」と読む。「チャーリートンミン」を覚えている方も多いだろう。「有昌」同様、こちらもあっさりとした飽きのこないスープで、

具が全て別添えのさらに入って出てくる。表参道にある老舗「だるまや」と同じ形態だ。この味は、幸運にも、同店で修業した方がオープンした立石の「らーめん だいにんぐ ひびき」にて受け継がれている。同店では、おなじみの湯麺が楽しめるという。
 とはいえ、こういった個性的な街の中華料理屋が消えるのはさみしいものだ。特に、自分が通っていた店だと、その思いは強い。それぞれ閉店してからしばらく経つ店ではあるが、何故か最近、思い出してしまった。そこそこ美味い小奇麗なラーメン屋は数多く増えたが、個性的で印象に残る老舗のラーメン屋は少なくなってしまった。時代なのか、世代交代なのか、判らないが、それだけでは割り切れない思いを強くする。
(星 健一=会社員



演奏者推測のススメ 08


 前回に続いて、「東京ビートニクス ハイ パノラミック」シリーズで、70年代の音源をコンパイルした「ジャパニーズ70Sボム!」編のコンピレーション『ピーコックベイビー』を推測してみたいと思います。
 オープニングは、GSのジャイアンツ「スケート野郎」(68年)です。ジャイアンツはベーシストとして鈴木晴夫が、ドラマーとして谷しげるがクレジットされていますが、一聴瞭然ベースは江藤勲、ドラムスは石川晶です。60年代にかかわらず、80年代のレコードまで、実際のメンバーとは違うスタジオ・プレイヤー

による演奏のバンドはかなりありました。パンク・バンド、ラフィン・ノーズでさえ、メジャー・デビュー・アルバム『ラフィン・ノーズ』(85年)の演奏はスタジオ・ミュージシャンによるものと自身の口から述べられているほどです。
 江藤氏によるベースは、中尾ミエ「恋のシャロック」(68年)でも聴くことができます。イントロのファズは、当時江藤氏とスタジオ・ワークで共演することが多かった、成毛滋、水谷公生、杉本喜代志、村上光雄のいずれかだと推測されます。電子オルガンは、飯吉馨か穂口雄右でしょう。

 麻里圭子ウィズ・ハニー・ナイツ「ゴジラ対ヘドラ」(71年)でも江藤氏がベースを弾いています。この曲は、東宝レコード版とビクターレコード版の2種類がそれぞれアレンジが違います。東宝レコード版はトーン的には江藤氏っぽくないのですが、フレージング的に江藤氏だと思われます。
 中山千夏「宇宙にとびこめ」(71年)は判断に迷うところですが、サビのベースのフレーズからベースが寺川正興、ドラムスが猪俣猛と推測しました。
 素敵なグループ名のコミュニケーション72「ウィキ・ウィキ・ジェット」(72

年)。このズ太くて若干ながらゴリゴリ感があるベースは武部秀明ですね。
 ジャッキー吉川とブルーコメッツ「恋に首ったけ」(73年)。ピンク・レディーのプロト・タイプとなった曲ですが(作曲・編曲もピンク・レディーの初期と同じく都倉俊一)、ジャッキーさんがこんな「ペッパー警部」っぽいドラムスを叩くかと考えると、実力派のブルコメでさえも、このときはスタジオ・プレイヤーに演奏を委ねたものと考えられます。
(ガモウユウイチ=音楽ライター/ベーシスト)




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