2015年10月16日(金)

 
ヒトコト劇場 #69
[桜井順×古川タク]









「アルファミュージックライブ」公演レポート


 アルファミュージックの歴史を辿る、二晩限りのステージ。その豪華な宴は、日本の音楽史を紐解いていくような形で進行した。
 出演者は持ち時間がほぼ均等、それぞれ1曲ないし2曲を披露してバトンを渡していく。1組の出番が終わるとプレゼンターが登場し、次の出演者を紹介する。キャリアの長い順に、次々とバトンが渡されていく光景は、まさしく目で見る&

音で聴くアルファミュージック史であった。
 冒頭、ユーミンが荒井由実として、しかもプレゼンターで登場する。彼女はアルファの作家契約第1号。そして、15歳だった荒井由実が始めて採用された処女作「愛は突然に」を、加橋かつみがあの高いキーと独特の発声で歌う。ショーはこの曲からスタートした。
 前半のハイライトはティン・パン・アレーの演奏に

よる名曲群。彼らをバックに『スーパー・ジェネレイション』から「蘇州夜曲」「東京ブギウギ」を歌う雪村いづみの現役感たるや。40年前に出た時も斬新だったはずだが、今聴いても斬新である。これは凄いことだ。そして、これはアルファのアーティストたちの楽曲に共通する凄さでもある。
 続いて登場した荒井由実が歌う「ひこうき雲」は、発売から40年後に、宮崎駿の映画『風立ちぬ』の主題歌に使われたのだから、やはり「今聴いても斬新」なのだ。40年前と現在で、まったく同じ音で楽しめる歌が、日本にどのくらいあるだろうか。この「ひこうき雲」と、続いて歌った「中央フリーウェイ」は、どちらも当時から「斬新過ぎるコード進行」と騒がれた、作曲家・ユーミンの才能を象徴する2曲でもある。

 現役感でいうなら小坂忠と吉田美奈子。2人とも歌唱力に磨きがかかり、小坂忠は渋さを増し、美奈子は深みを増している。逆に驚くほど変わらないのがブレッド&バター。いつまで少年の声なのだろう。28日のみ登場した山本達彦も変わらぬ美貌とクリアな歌声が素晴らしかった。サーカスも、「Mr・サマータイム」のイントロが流れると、思わず両手を上に掲げたくなったほどである。
 ……と、次々に現れるアーティスト達の現役ぶりを堪能していると、ふと「ここに居て欲しかった人たち」の不在に思いがめぐる。赤い鳥として紹介された後藤悦治郎と平山泰代の「竹田の子守唄」は素晴らしかったが、あと3人……ハイ・ファイ・セットの不在が淋しかった。洒脱で洗練されたポップス、クールで艶っ

ぽいハーモニー、彼らこそアルファの理想を体現したアーティストではなかったか。赤い鳥もハイ・ファイも、もうオリジナル・メンバーで聴くことは叶わない。
 不在といえばサンディー&ザ・サンセッツ。そしてゲルニカ。アルファ・レコードの中でもYENレーベルは、前衛的なアーティストと時代の先を行くサウンドを次々と世に送り出していた。ことに〝後ろ向きの前衛〟ゲルニカは、あの時代においてもアルファでなければデビューできなかっただろう。実際、ゲルニカのヴォーカルだった戸川純は、ソロ・デビューしてあっという間にサブカルチャー的アイドルとなった。彼女もやはりアルファが育てたのである。
 1人になってしまったガロも同様だが、それでも「学生街の喫茶店」を歌っ

てくれたことが嬉しい。和製CS&Nと呼ばれたロックバンドは、この曲のヒットで思惑と違う方向に進むことになった。でも、アルファでガロといえばやはりこの曲なのだ。シーナを失ったシーナ&ロケッツも同様だ。そして後半のハイライトは、不在の坂本龍一に代わりアルファ総帥・村井

邦彦氏を加えてリアレンジされた「ライディーン」を披露するYMO。みんな懐メロじゃない、現役の音だ。
 ステージ演出を担当した松任谷正隆の仕事についても触れておきたい。松任谷演出の凄味はユーミンのステージで幾度となく堪能してきたが、今回、特にセット・チェンジの早さには目

を見張った。通常、あんなに早く変えるのは、至難の業なのだ。そこをプレゼンテーターの紹介で繋ぐという演出はさすが松任谷正隆であり、ユーミン・チームの底力といえる。武部聡志率いるハウス・バンドはコーラス3人やベースが現在のユーミンのバンド・メンバーと同一だが、彼らであったからこそ、ティン・パン・アレーの演奏から違和感なく繋げられることが出来たのだと思う。
 アルファが如何にアーティストを大事にしていたか、この日披露された楽曲を聴くだけでもよくわかる。『ひこうき雲』のレコーディングに1年間を費やしたのも、タモリやスネークマン・ショーのアルバムを商業ベースに乗せることが出来たのも、キャラメル・ママと雪村いづみを組ませたのも、すべては村井邦彦氏

あってのもの。才能を発見することは、耳の肥えた人物なら可能かもしれない。だが、その才能を開花させ、息の長いアーティストに育てることは、村井氏でないと出来なかった偉業なのだ。
 村井邦彦氏はアルファの父である。父だからこそ、アンコールで既にこの世を去った縁者たちを回想するパートがあるのも当然のこと。いささかセンチメンタルに思えたかもしれないあのパートは、アルファ家の長として、絶対に必要なものだったのだ。村井氏が父なら、冒頭と最後にプレゼンターとして登場した荒井由実は、アルファ家の長女ということになるのだろう。
 アンコールで、村井氏がピアノ1台で「美しい星」を弾き語り、カーテンコールへ。真っ暗なバックに一転してスポットが当たると、これまで登場したアーティ

ストたちがずらりと揃って、笑顔と拍手で父親を囲んでいる。胸が熱くなるラスト・シーン。終盤のトークでユーミンは、「あの頃、アルファのアーティストが一堂に会する場はなかった」と語っていた。みんなが誰もが「自分が一番」と思っていたから、と。では、年齢を重ねて彼らは丸くなったのか。そうではない。彼らはみんな「生き残った」のだ。過去40年に渡るダイナミックな日本の音楽シーンの変化に生き残った者たちが、彼らを生み育てた偉大なる父親を讃えている。観客もみんなスタンディング・オベーションで感謝を表している。素晴らしい音楽をありがとう、と。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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撮影=三浦憲治/写真提供=ニッポン放送



「月刊てりとりぃ」同人・縁者懇親会


 少し早めに仕事を終わらせ、電車に乗り込んだ。しかしなかなか発車しない。車内のアナウンスで人身事故が起こったことを知る。次に乗り込んできた学生が、発車するのは一時間後らしいよ。と会話しているのを聞いた。すぐに電車を乗り換えて、少し遠回りしてやっと新宿に着いた。この日

は、午後7時30分から新宿御苑前のスタジオで、てりとりぃの懇親会が行われた。もう8時30分になる。大幅な遅刻だった。
 早足で会場へ向かい、中に入ると、ちょうど田ノ岡三郎さんの演奏が始まろうとしていた。アコーディオン、ソロの演奏。演奏したのは、ひょっこりひょうた

ん島の「ひとりじゃない」だった。宇野誠一郎さんの少し寂しさのある美しいメロディーはアコーディオンの音と合って、まるでフランス語の歌詞が聴こえてくるようなシャンソンになっていた。続けて、ブエノスアイレスから帰ってきたばかりの田ノ岡さんはもう一曲。タイトルは忘れてしまったが、これもまたつい指がどうなっているのか、凝視してしまうほど素晴らしかった。
 次にピアノの前に座ったのは村井邦彦さんだった。槙みちるさんも前に出てきて、ミシェル・ルグランの「おもいでの夏」と「ロシュフォールの恋人たち」「シェルブールの雨傘」をメドレーで演奏。そして古川タクさんがミュージックビデオのアニメーションを作った「美しい星」。村井邦彦さんの低く曇った癖の

ある歌声がぼくは大好きだ。
 ここで「てりとりぃ」編集長、濱田高志さんのアナウンス。今年は「てりとりぃ」執筆者から3組、結婚した方々がいます。今日は都合で一組しか参加できませんでしたが、久保田智子さん、河崎実さん、馬場正道さんです。サプライズだった。花束をもらい、村井邦彦さんが誕生日の歌を弾く。そして槙みちるさんが、今日は二人のために一曲歌います。と言って歌ったのは「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」だった。英語で歌われているのに、なぜか歌詞が日本語ですっと頭に入ってくる。それは和田誠さんのコンサートで和田さんがその曲の訳をお話していたからだ。と後になってから思い出した。槙みちるさんの程よく力の抜けた伸びのある声が素晴らしい。信じられない方々に祝って

いただき、忘れられない最高の思い出になった。
 その後の村井さんのお話も忘れられない。すべては前衛から始まる。一枚の紙から文化が生まれる。という話はなんだか嬉しくてわくわくしてしまった。
 その後も会は続き、いつものように多幸感だらけの素晴らしい会だった。帰り道、電車の中、楽しかったなあ。贅沢だったね。と、ずっと言っていたような気がする。
(馬場正道=渉猟家)



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