2015年10月2日(金)

 
買い物日記[10]


 毎年この時期になると湿気が部屋に溜まり、モノの多いぼくの部屋は、気を抜くとすぐにカビが生えてしまう。こまめに除湿機をかけないと、部屋に湿気が溜まっていくのがすぐにわかる。
 まず、レコードのジャケットに触っていると触り心地が変わってくる。微妙に湿気を含んだジャケットは気持ちヌメっとした感じで触っていても気分が良くない。これを無視しているとどこかに白いモヤモヤ、カ

ビが生えてくる。一番カビが生えやすい場所はポータブルの蓄音機だった。なぜか黒い布張りの蓄音機だけ、白い斑点が下から徐々に広がってくる。そうなるともう蓄音機を全部棚から取り出してキレイに布で拭き取って、蓋を開けて除湿する。本当は蓋の中にシリカゲルでも入れたほうがいいのだろう。箱の中の空洞はどうも湿気が溜まりやすいようだ。
 除湿が終わったあとの部屋は居心地がいい。布団乾

燥機の中にいるような、生暖かいカラッとした空気がいい。そんなときは小さな音量で音楽をかけて本を読むことが多い。
 また東郷青兒の「手袋」と「カルバドスの脣」を読んでしまった。当時、東郷青児がステットソンのハットをかぶっていたことに驚いた。
 かけていた音楽は、ティティック・プスパの10インチ「TARUNA DJATUH TJINTA」だった。B面の一曲目「ANTARA SEPI DAN KESEPIAN」では、カウボーイの映画で有名な曲の一部が使われていた。ステットソンのハットとカウボーイ。インドネシアのカウボーイのことを少し考えてしまった。70年代、インドネシアではカウボーイが流行っていたのだろか。ティティック・プスパのレ

コードも70年代、インドネシア初のカウボーイ映画、ビング・スラマットの「KOBOI CENGENG」は74年だった。
 初めてこの映画のことを知ったのはパサール・サンタのレコード屋で飾られていたオリジナルのポスターを見てからだ。
 ただ、インドネシアとカウボーイがどうしても結びつかない。もともと牛と馴染みのあるインドネシアでは、カウボーイもすんなりと受け入れられたのだろうか。それとも流行らそうとして失敗したのか。まだまだ知らないことがたくさんある。
 ただ、今はティティック・プスパのレコードで使われていたカウボーイ映画の有名な曲がどうしても思い出せない。それが悔しい。
(馬場正道=渉猟家)



【ライヴ盤・イン・ジャパン】その18
歌謡フェスティバルのレア音源

 レコード会社専属制の縛りが強かった時代は、メーカーごとにラジオ番組を持っていたり、所属歌手が集合してイベントを行ったりしていた。「コロムビア歌謡大行進」とかああいうやつです。かくいう筆者も、子供の頃に新宿厚生年金会館まで、ビクターの歌謡ショーを観に行ったことがあります。記憶に残ってるのはピンク・レディーとトリの三浦洸一だけなんだけど……。
 そういう歌謡フェスを収録したライヴ・アルバムがいくつかあって、今回紹介するのは、まずRCA創立5周年記念の『オール・スター歌の祭典』。新進メーカーのRCAもやっとスターが揃い、こんなイベントが打てるようになりました、というお披露目でもある。こういう場合、売りになるのは和田アキ子、西城秀樹、

藤圭子、クール・ファイヴといった人気者で、実際に複数曲歌っているが、今となっては、単独のライヴ盤がないマイナー歌手のステージ音源こそが貴重。この盤だとまずチャコとヘルス・エンジェル「愛してる愛してない」がイカしてる。いきなりヴォーカルのチャコこと田中まさゆき15歳が

「パパ!見ててくれよ! デビューしたよ!」と絶叫。これ、何かってチャコは確か大金持ちの出で母子2人暮らしという話がデビュー時の売りだったはず。生演奏はよく「ぎんざNOW!」で聴いていたはずだけど、結構ノリが良くて驚く。さすが70年代GSリバイバルを代表するアイドルGS、

これ聴いたらチャコヘルの評価も上がると思うんだけど……。
 他にもマイナー・アイドル好きにはたまらない里見ゆりの「秋のささやき」とか、フェロモン歌謡アイドルの南陽子「噂の天使」とかライヴで歌っていて結構凄い。野路由紀子姉さんは生でも上手い。そして、藤圭子の成功によって、RCAが「不幸系歌手路線」を敷いたことが如実にわかるのが中盤。森村美沙なる新人が♪生まれた時からみなしごで~と歌う「おんな道」を披露し、牧村三枝子「若い季節」に続く。おまけに千葉マリヤを紹介する土居まさるのMCは「坊やのために歌います!」だもん。この坊やって……あとはググッてください。ちなみに実況録音は名エンジニア内沼映二によるもの。
 もう一枚は『徳間音楽工

業創立10周年記念 ミノルフォン・ヒットパレード 歌の祭典75』。こちらは、千昌夫、五木ひろし、森昌子といったドメスティックな布陣で、もちろんミノルフォン総帥・遠藤実先生もゲストで登場。だが、今となっての目玉は、平田隆夫とセルスターズ「ハチのムサシは死んだのさ」。これ、

実は初代の女性ヴォーカル2人が抜けた後の2代目・セシリアの歌唱によるものなのだ。やっぱりツインじゃないと淋しいし、男性メンバーも減ってるようだが、これはこれで貴重。加えて元ピンキラのメンバー、けい子とエンディ・ルイス「あなたの町・恋の町」。つなき&みどりみたいでカ

ッコいいグルーヴィー歌謡なのだ。沢田亜矢子の歌手時代の音源も入ってるし、小川順子の「夜の訪問者」もあるし、中山恵美子の「マイ・ホームタウン・ギンザ」やスリーナッツのお色気歌謡「髭をそらないで」まであるよ!いやはや、オールスターものは侮れない。
(馬飼野元宏=「映画秘宝」編集部)
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写真上●『RCA創立5周年記念 オールスター・歌の祭典』アット日劇/74年(月日不明)/司会・土居まさる/演奏:高橋達也とユニオン・オーケストラ/コーラス:ウィルビーズ
写真下●『徳間音楽工業創立10周年記念『ミノルフォン・ヒットパレード 歌の祭典75』/75年(月日・会場不明)/司会:高島忠夫、牧ひろ子/演奏:ダン池田とニューブリード



ポール・ウェラーのキャリアを凝縮したムック
『CROSSBEAT Special Edition ポール・ウェラー』が発売です

 お前の青春はいったい何ケあるのだ?と聞かれてもちょっとその答えには困るのですが、当方にとってはまさに「わが青春のポール・ウェラー」。研究しまくるのは当然ですが、好きが高じて取材したことも、それとは別にちょっとだけお仕事をしたこともあります。でも、どれだけ時間が経っても憧憬の念を失うことはありませんでした。おそらく今後もそうでしょう。当方が取材したとき「あなたが息子さんに伝えたいこと、

見習って欲しいことって何?」と質問したら「人の意見に屈せず、自分自身を信じること」なんていうカッチョイイ回答をくれましたが、その息子さんは今ビジュアル系JーPOPに夢中で、それ系のバンドなんぞに勤しんでおります。その息子さんを微笑ましく眺めるウェラーパパのお姿、できれば見たくはありませんでしたが(笑)こればっかりは仕方ないです。
 10月中旬に来日公演が決まったそのポール・ウェラ

ーさんですが、急遽キャリアを総括するムック本を作ることになりました。おかげで今年の晩夏はほぼ全てスタイル・カウンシルのコンピばかりを流して過ごしましたが、なんとか本の出版が来日公演に間に合うことになりそうです。シンコーミュージックより『クロスビート』誌のスペシャル・エディションとして発売されるこのムック、半分以上を膨大なウェラー作品のディスコグラフィーに費やしました。なんと言っても現役で新作をバンバン出す人ですから、並べてみたら膨大な量となりました。よくもこんだけ買い集めたなと我ながら呆れますが、それでも持っていないものも多数。他の執筆者諸氏の協力を得てほぼコンプリートで紹介しています。
 ただしiTunes限定で販売された〝BBCセッ

ション音源188曲セット〟なんて作品(現在は販売終了)を〝アルバム〟としてディスコグラフィーに加えるかどうかは難しいところです。今回の本には無理矢理載せちゃいましたけど。
 本書のテーマは、もちろん彼の「音楽性」と「人間性」です。その2つを売りに今日まで歩んだ彼ですから当然ですが、いくら同一人物でも18歳と57歳とで発言の内容に一貫性を求めるのは無理があるのも当然の話です。40年近くの間ずーっとメディアからヒーローとして崇められ、イギリス中から「もっとも信頼できる人物」人気ナンバー1として注目を集めた彼の発言も、時代順に大量のインタビュー・アーカイヴとして掲載してあります。興味のあるかたは是非お手にとってみていただければ。
(大久達朗=本書監修者)
シンコー・ミュージック・ムック『CROSSBEAT Special Edition ポール・ウェラー』10月7日発売/¥1,728(税込)