2016年2月12日(金)


2016年冬の新刊案内、3冊


 新刊案内を3冊ほど。まずはお馴染み、コラムニスト泉麻人さんによる音楽エッセイ本が発売になりました。『僕とニュー・ミュージックの時代〜青春のJ盤アワー』は、著者自身の体験とその記憶を手がかりに、邦楽の名盤とその当時の風景を紐解くエッセイ集。過去ロッキング・オン社の季刊誌『SIGHT』誌に連載された「青春のJ盤アワー」全コラムを、今回の単行本化に際して加筆。日本のポップスが「歌謡曲」か

ら時代の洗練を経て「ニュー・ミュージック」へと移り変わっていく様を、筆者なりの視点と当時の風俗をも絡めて名盤を紹介する1冊となりました。はっぴぃえんど、ガロ、シュガー・ベイブ、よしだたくろう、いしだあゆみ、荒井由美、平山三紀、鈴木茂、石川セリ、大瀧詠一、岩崎宏美、YMO、吉田美奈子、大貫妙子、サザンオールスターズ、他多数の名盤をキーワードに、「私的な時代論、の趣向が強い」(本書まえ

がきより)という本書は、音楽ファンも、そうでない方にもご一読いただきたい「音楽書」となりました。巻末には、「歌謡曲のスペシャリスト」鈴木啓之氏と著者とのクロストークを収録。定価1400円+税で発売中です。
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 そしてガラリとかわって、今年2月に来日公演が決定し、なんとほぼソールドアウトという信じられないパワーをみせつける女帝マドンナ。彼女の来日を記念し

て、ありそうでなかった「マドンナの音楽歴」を網羅したムック本が発売になります。存在そのものがスキャンダラスで話題となることの多いアーティスト・マドンナですが、基本的に(誰もが知るように)彼女は音楽家です。その音楽を紐解かずして、何も知ってることにならないよね、という極めてシンプルなモチベーションの元に本を作ってみたら、これ以上ねえよな、というくらいゴツい内容(笑)となりました。

 過去の本人のインタビューや記者会見語録等も掲載していますが、あのナイル・ロジャースに『ライク・ア・ヴァージン』の録音状況を根掘り葉掘り聞くとか(ええ、どんなスタジオでどんな風にドラムの録音したの?なんて訊くバカは、日本中に当方くらいしかいません。笑)、「ライク・ア・ヴァージン」作曲者がどんな人物かとか、「ラ・イスラ・ボニータ」共作者のブルース・ガイチがマドンナを語るとか、共同制作者パトリック・レナードのインタビューとか、若き天才スチュワート・プライスがどんだけ天才かとか、そういう文献が多数掲載されています。
 もちろんそうしたコアな音楽解析だけではなく、各方面からの要望アンド監修者の希望も反映して、マドンナの写真を大量に掲載し

ました。マドンナの歴史を目で見る本にもなっています。こちらは定価1300円+税で発売中です。
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 最後は、先日亡くなったデヴィッド・ボウイの追悼本です。緊急発売されたこの「クロスビート・スペシャルエディション〜デヴィッド・ボウイ」は、2013年に発売された同名のムック本を増補・再編成したものですが、遺作となった『★(ブラックスター)』の詳細な紹介文、世界中が

今回の訃報にどう反応したかというレポート文、追悼文、他多量の新規ページを追加したものです。
 当方も追悼文を寄せさせていただきました。おそらく自分の人生で一番重く辛い追悼文となりました。それでも、事実を事実と認めなければなりません。
 「生きることは難しくて、色々なものが僕達を少しずつ追い詰めているのは否定しようのない事実。だけど、この世はタフで厳しい所だという事実を受け入れてし

まえば、遠くに光が見えてくるものなんだ」ーーボウイ本人の発言です。うん、そんなこととっくに知ってるよ。アンタにそう教えてもらったからね。でもまだ当方には光は見えてないです。今はまだ否定しようのない事実に追いつめられている、そんな状況です。やたらブ厚い本ですが1800円でこちらも発売中です。この機に興味を持たれた方は、是非ご一読を。
(大久達朗=デザイナー)
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●『僕とニュー・ミュージックの時代〜青春のJ盤アワー』泉麻人・著/四六版・168頁 ●『クロスビート・スペシャルエディション〜マドンナ』B5版128頁/監修・大久達朗 ●『クロスビート・スペシャルエディション〜デヴィッド・ボウイ』B5版216頁 いずれも発売中。



『あぶない刑事』が映画で復活〜なぜ「刑事ドラマ」は廃れないのか


 テレビ離れが叫ばれるなかで、十六年前に始まったテレビ朝日『相棒』の第十四シリーズが好評放送中だ。さらに、80年代に一世を風びした日本テレビ『あぶない刑事』が復活。その最終作が、劇場用映画として先月末に公開されるなど、あいかわらず「刑事ドラマ」が元気である。
 テレビドラマの歴史を振り返ると、その時代によって流行するジャンルがあった。テレビが一家に一台だった時代には、家族そろっ

て楽しめる明朗なホームドラマが受けた。バブル景気に沸いた時代には、若者たちに夢を見させるような恋愛ドラマが次々に当たった。そうした流行に左右されることなく、常に多くの番組が作られつづけ、安定した人気を集めているドラマ、それが刑事ものである。
 では「刑事ドラマ」はいかにして誕生し、発展し、そして、いつの世にも万人に愛されるジャンルとなったのか。その答えに迫ったムック『にっぽんの刑事ス

ーパーファイル』が、洋泉社から発売された(定価1728円・税込み)。
 まず本書は、テレビ草創期から今日に至るまでの代表的な刑事ドラマを年代順に取り上げて、ドラマ好きのライター陣が各作品を熱く評論。さらに小野寺昭(『太陽にほえろ!』)、夏木陽介(『Gメン75』)ほかの出演俳優、脚本家の小山内美江子(『キイハンター』)、監督の小林義明(宇宙刑事シリーズ)らスタッフが制作秘話を明かす。
 特に1970年代は、質量ともに刑事ドラマの黄金時代だった。しかも大ヒットした作品が生まれると、制作者たちは、いかにして異なる路線を打ち出して視聴率を稼げばよいか知恵をしぼり、競い合った。たとえば『太陽にほえろ!』で新人刑事の殉職が評判を呼ぶと、『警視庁殺人課』は

その最終回で、登場する刑事たちがバスジャック犯を捕まえようとして、なんと全員が命を落としてしまった。モノマネは絶対にしない、という制作者たちの心意気。それが個性豊かな刑事ドラマをいくつも生み出す原動力になったのだ。
 ひるがえって現在の刑事ドラマはどうか。90年代以降、テレビ局が暴力表現を自主規制したこともあって、刑事が犯人を安易に射殺す

ることもないし、『西部警察』のような派手な爆破やカーアクションも姿を消した。代わって、ストーリー展開に凝ることで視聴者の興味を最後までつないだり、登場する刑事に風変わりな性格を与えることで、新鮮味を出している。放送中の『相棒』は、正にこの二点を実践することで成功しており、刑事ドラマの新たな地平を切り開いた。 1970年代以降の主な人気刑事ドラマは、レンタルDVDで容易に楽しめるので、新旧の作品を見比べてほしい。そのちがいや共通点が見つかって、「刑事ドラマ」というジャンルの魅力、その奥深さが実感できるはずである。
(加藤義彦=ライター)
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●『映画秘宝EX にっぽんの刑事スーパーファイル』洋泉社より発売中



ロシアとシベリア


 先日、いつも行く駅前のスーパー、マルエツミニで懐かしい菓子パンをみつけた。「チョココロネ」。巻き貝を模した形のパンの中に、チョコクリームが入っているそれである。みなさんも、一度は食べた事はあるでしょうが、最近は御無沙汰なのでは? それと、このコロネという名前、実はコルネットと同じ金属管や角笛の意味であるコルネからきているとは知らなか

った。それがなまって、コロネになったそうである。パン屋大手、山崎パンでも、この商品はロングセラーの一つで、いまだにラインナップに残っている。
 そこで、ふと思い出したのが、「ロシア」だ。最近、菓子パンの棚にさっぱり見かけなくなったが、一時はビックサイズの「大ロシア」などと一緒に、菓子パン棚の定位置を確保していたものだ。中央部にかかってい

るホワイトシュガーのコーティングがロシアの雪原を思い出させるため、その名が付いたと勝手に思っていたのだが、真相はロシアで古くから食べられているパンを模しているからだそうだ。近所のスーパーではまったく見かけず、山崎パンのHPからも消えているので、すわ発売中止かと思っていたら、イトーヨーカドーなどの一部の大型スーパーには置いてあるらしい。
 同じような名称だが「シベリア」もある。ちょっとお菓子の範疇に入ってしまうが、こちらは山崎パンのHPでも健在だ。実はコルネと一緒に、思わず同時買いしたのだが、スポンジケーキ、もしくはカステラの間にスライスした羊羹がサンドされたもので、実は結構歴史が古い。数年前に映画「風立ちぬ」で話題になったので、ご記憶の方も多

いと思うが、明治後半から大正初期には、どこのパン屋でも販売されていたという記述もあり、昔はかなり一般的なお菓子だったようだ。しかし、この映画公開前までは、ほぼ作られなくなっていた。
最近は、アンデルセンなどのベーカリータイプのパン屋が普及し、デニッシュペストリーなどの、いわゆる洋風菓子パンが主流になってから、日本独自の菓子パンは肩身が狭くなってきたように思える。そこで、「ロシア」だ。実はこのパンも昭和23年山崎パン創業時から生産している歴史あるもの。今では、「黒糖入りロシア」もラインナップに加わった。沖縄の長寿食としても知られる黒糖をキーにクローズアップされていけば、「ロシア」復権も近いかも?
(星 健一=会社員)