てりとりぃ放送局アーカイヴ(2016年4月15日〜2016年4月29日分)

 奇行、って言葉があります。一般の社会生活においてはそれはけして褒められたモノではありませんが、こと音楽業界におけるソレは愛すべき所作のひとつでして。で、今回が「ステージ上での奇行」特集。日本のTV音楽番組でのソレは、カメラ壊したとかドタキャンしたとか腰カックンカックンしたとか伝説がいくつもありますが、今回はそういうのとはちょっとレベルが違うものをいくつか並べてみっました(2016年4月15日更新分/選・文=大久)


The Crazy World Of Arthur Brown / Fire (1968)

 曲名もそのままの、最も有名な「奇行」アーティスト、アーサー・ブラウン。頭上で火を燃やしながら歌うその姿が話題となり大ヒットを収めた人ですが、案の定ワンヒット・ワンダラーとなってしまいましたね。動画は68年のTOP OF THE POPS出演時のもの。既に有名な話ですが、曲を生み出したのはピート・タウンゼンド、バック・バンドは後にアトミック・ルースターを結成した面々。

Screaming Lord Sutch at London R&R Show (1972)

 スクリーミン・ロード・サッチは「怪奇派」そのままのキャラを演じることで人気を得たシンガー。64年の段階でこんなことをやらかして注目を集めた人ですが、時を経て72年、ロンドンの大規模なR&Rリバイバル・ショーにて、火燃やすわ拳銃ブッ放つわ女性を素っ裸にするわ、の大騒ぎステージを披露しています。それを見て小さな子供にまで暖かい拍手を貰うあたりが、彼の素敵なところ。

Jobriath / Rock of Ages (1974)

 ジギー・スターダストに強く影響を受けてしまった、ちょっと可哀想なロック・シンガーのジョブライアス。74年のTVライヴです。ギターの音は最高なんですが、曲も歌もルックスも、そして奇抜なアイデアまでちょっと悲惨なことになっていますね(笑)。大金を使って売り出された人でしたが、当初からゲイを公言していた彼は、83年にエイズで亡くなってます。

The Smiths / William it Was Really Nothing (1984)

 ちょっと時代が飛んで1984年。既にこの時代になると「奇行」そのものの意味合いは変わってます。「TVの中の出来事」だけではもはや話題にもなりません。が、モリッシーはこの曲(もちろん口パク)で女性もののシャツをヒラヒラさせるだけでなく、上半身裸になり「MARRY ME」のペイントを披露。もちろんこれは伝説のシド・ヴィシャスのペイントを参照したもの。彼らがパンクを通過した上に立つ音楽家であることを証明してみせました。

Daisy Chainsaw / Love Your Money (1992)

 で、こちらはパンクっていう考え方をシンプルに具現化した人達。デイジー・チェーンソーです。メンバー全員が女装してるのはただのオフザケですが、大暴れするシンガーを観客が拉致して終わるというハチャメチャ振りを披露。この女性シンガーは実際にかなりキテる人でして、92年の日本公演では長髪を振り乱したかと思えば、おもむろに頭髪(ズラ)を投げ捨て坊主頭で同曲を披露してました。いわゆるマジでヤベエ女性です。



*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。




 以前レトロなリズムマシン特集てのをやったことがありますが、今回はシンセを特集します。とはいえレトロなシンセというのは膨大なサンプルとウンチクがあるので、とても本稿であれもこれもとご紹介できる類いのジャンルではありません。そこで今回は「メロトロン」だけ、をご紹介してみたいと思います。メロトロン、いいですよね。音もいいんですが、なんと言ってもあの馬鹿馬鹿しい発想がもう素敵です。しかもその馬鹿な発想でもって一世を風靡したという点がさらに素敵。(2016年4月22日更新分/選・文=大久)

MELLODRAMA: Mellotron/Chamberlin Documentary Trailer

 以前のリズムマシン特集の際に、チェンバリンというブランドのブツをご紹介しましたが、そのチェンバリンが製造したリズムマシンが、あのメロトロンの大元のアイデアとなりました。鍵盤の数だけテープリールと再生ヘッドが存在しそれぞれを発音するというそのシステムは、当時はまさに画期的だったものです動画はメロトロンの製造逸話をまとめたドキュメンタリー映画『メロドラマ』トレイラー。

Mellotron MkII

 チェンバリンはアメリカのブランドでしたが、その最新機材を研究・発展したのがイギリスのブラッドレー3兄弟。チェンバリンが開発したリズムボックスを、リズムではなく鍵盤楽器として改良したわけですね。動画はメロトロンMK2と呼ばれる初期のブツ。なんといっても演奏している曲が素晴らしいわけですが(笑)実際にこの曲のオリジナル録音でメロトロンを演奏したのはリック・ウェイクマンでした。

Paul McCartney shows the Mellotron

 さて、当方のような鍵盤の素人がウンチクを語っても説得力がありません。というわけでプロによるデモンストレーション。ポール・マッカートニーがメロトロンを実際に人前で説明しデモ演奏を行なっています。とはいえ、即興のデモ演奏ではなく、後半で実際に披露される「Strawberry Fields」の生演奏こそがこの動画の最大の見所なんですが。

King Crimson and Mellotron

 さてさて、そのビートルズをオールドファッションな存在に陥れたとして知られる(笑/でも実際そのとおりだと思うのですが)キング・クリムゾンですが、彼らはメロトロン2台使いというバンドでした。動画はイアン・マクドナルドと友人だという、イングランドのキーボード奏者ロバート・ウェブによるメロトロン紹介動画。日本語字幕付きですので、初めての方にも判りやすいかと。

Mellotron 4000D

 いかがですか。メロトロンって現代に再現するにはあまりにも無駄が多すぎる機構であるとお分かりかと思います。今は21世紀。あんなアナログこの上ない機材をそのまま再現するのは無謀です。というわけで、2007年に蘇った最新式メロトロン。外身は往年のブツそのままに、内部を完璧にデジタライズして再生しました。でも笑っちゃうのは、テープ回転を司るモーターの制御がデジタル化されただけで、実際にはテープが内部で廻って発音するという機構はそのままなんです。実際にテープが廻ってる、それがもうロマンなんですよね。

Electro-Harmonix Mel9 Tape Replay Machine

 そしてもうひとつ最新機材をご紹介。なんとギターであのメロトロンの音が出せるという衝撃の小箱。これで3万円ほどするのですが、往年のオリジナル・メロトロンは100万円でも買えず、デジタル版も数十万円します。これで「何をどうする何の意味あんの?」っていう問題ではありません。ギターでメロトロンの音が出せる!それだけのロマンのために存在する呆れた小箱です。

*動画のリンク切れの場合はご容赦ください。




 先日とあるお仕事の関係で集中的にこんなのばかり聞いていたんですが(笑)、70年代ディスコ音楽の中でもひときわ異彩を放つ「ジンギスカン」をご紹介してみたいと思います。彼らといえばグループと同名曲(79年)が一番有名なんですが、今回はその次の大ヒット曲「MOSKAU(邦題:めざせモスクワ」を集中的にご紹介。(2016年4月29日更新分/選・文=大久)


Dschinghis Khan / Moskau (1979)

 ジンギスカンは79年、西ドイツで結成されたグループです。当時大ヒットしていたボニーM「怪僧ラスプーチン」にあやかれ!と企画されたグループでした。メンバーは東西ドイツ、ハンガリー、南ア、オランダといった出身の人。みなオーディションで選ばれた人達でした。つまりモンゴルもソビエト連邦も一切関係ありません(笑)。動画は79年当時のTV出演時のもの。

Dschinghis Khan / Moskau (2011)

 なんでモスクワかといえば「(80年に)モスクワ五輪が控えていたから」という至極明快な理由でした。日本人はそういうの大好きですもんね(笑)。しかしなんといっても、この曲は当時のソビエト連邦で大ヒットしました。今もこの曲はかの地で大人気。動画はTVでの歌謡祭にて披露されたもの。

Dschinghis Khan / Moskau (2015)

 ちなみに最近では、一部オリジナルメンバーの急逝もあり、歌うメンバー+「レガシー」と名付けられた専任ダンサー・グループからなるユニットとなっています。発表から30年以上経ってるのに若いメンバーがいたりするのはそういう理由ですが、メンバーがオリジナルかどうかは一切関係なく、アレンジを最新のものにアップデートするとかそういう小細工一切ナシにもかかわらず、ロシアでは今もこの曲は大人気。

Georgie Dann / Moscú (1980)

 で、この曲のカヴァーをご紹介。フランスのシャンソン歌手、ジョージー・ダンによる80年のカヴァー。なんか痛々しいものを感じ取ってしまうのは、当方だけでしょうか。

ダーク・ダックス / Moskau (1979)

 日本で一番有名な同曲のカヴァーはもちろんダーク・ダックスによるもの。いやあ、ディスコ・アレンジなのに、それでもやっぱりダーク・ダックスですね・・・。日本語詞・藤公之介、編曲・白石哲也。当時ロシア民謡を多く手がけていたからその流れで、と選ばれたことは想像できますが。ええ、そうなんです。この曲ドイツのミュンヘン・ディスコ曲なんですよ。

Black Messiah / Moskau

 最後です。2006年に発表されたジャーマン・メタル・バンド、ブラック・メサイヤによるカヴァー。ええ、スッキリしますね。ジャーマン・メタルですもん。それにドイツってこういう伝統的なお祭りソングが安定して人気ありますし。



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