てりとりぃ放送局アーカイヴ(2016年5月6日〜2016年7月8日分)

  2016年4月21日、プリンスが急逝しました。追悼企画と称したものがこれから色んなメディアでパカパカと出てくると思います。それはそれでまったく問題なく、むしろ必然です。で、今回の当欄では、彼の初期提供曲/初期参加曲をおさらいしてみます。基本的に「下積み時代」のなかった人ですが、世界中がプリンスの名を知るその前の時代、天才音楽家がどう天才だったのかを知る素材にはなると思います。(2015年5月6日更新分/選・文=大久)


94 EAST / Just Another Sucker (1975)

 75年ミネアポリスで結成された94 EASTは、プリンスのいとこの夫という人が結成したファンク・バンドでした。当時16歳、全く無名だったプリンスが初めて楽曲提供・録音に参加したのがこのバンドでしたが、当然ながらこの音源は当時未発表。プリンスの大ブレイク後に「初期音源」としてCDで発売(85年)されたものです。

The Lewis Connection / Got To Be Something There (1979)

 こちらもミネアポリスのソウル・グループ。79年にインディーでわずか200枚しかプレスされなかったというレア・アルバムですが、プリンスは自作曲「GOT TO BE SOMETHING HERE」を提供、ギターとコーラスで演奏にも参加。ただしこの曲は、実際には76年の年末に録音されたものでしたが。

Bette Bright / When You Were Mine (1981)

 17歳でワーナーと巨額の契約金でサイン。その後のプリンスの活躍はここで語るまでもありませんが、81年当時はまだまだ彼への逆風が強かった時代です。で、こちらはプリンスの80年作曲を
イギリスのポップ・シンガー、ベット・ブライトがカヴァーしたもの。実はこの曲はプリンスのオリジナル(『DIRTY MIND』収録)以外にも、83年のシンディー・ローパーのカヴァーが有名なのですがこちらのカヴァーはクライヴ・ランガー&アラン・ウィスタンレー制作、イアン・ブロウディーが参加したという、とってもUKテイストの色濃い曲になってます。
Ren Woods / I Don't Want To Stop (1982)

 レン・ウッズはアメリカの子役女優として有名だった女性で、79年にEW&Fのモーリス・ホワイト制作でアルバムをリリースしてたりした人です。チャック・ジャクソン・プロデュースの82年作『AZZ IZZ』は2作目、そして最後のアルバム作となったものです。ここに収録された「I DON'T WANNA STOP」はプリンスが彼女のために作曲・提供した曲。

The Pointer Sisters / I Feel For You (1982)

 後にチャカ・カーンが発売し、世界中で大ヒットした「I FEEL FOR YOU」。元はプリンスのデビュー盤(79年)収録曲で、チャカのヒットよりさかのぼること2年前、ポインター・シスターズがカヴァーしています。元々はパトリース・ラッシェンに提供するつもりで作曲したもの、とのことですが、パトリースは結局この曲を録音していません。チャカ、ポインター姉妹の他にも、ジャクソン兄弟の長女(マイケル・ジャクソンの姉)リビー・ジャクソンもこの曲のカヴァー(84年)を残しています。



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 聴き比べ特集です。中でも最も大ネタの部類に入ると思われますが、今回は「君の瞳に恋してる」を比べちゃいます。たとえば「イパネマの娘」同様もはや把握不能と言えるほど数多のカヴァーが残されていますが、今回は簡単です。「君の瞳に」をアコースティック・ジャズでやってみた、というブツだけを揃えてみました。ここまで絞れば、抽出も容易ですね(笑)。(2016年5月13日更新分/選・文=大久)


Tony Mottola / Can't Take My Eyes Off You (1967)

 1918年生まれのギタリスト、トニー・モトーラ。彼は音楽業界で1〜2を争ほどの有名人トミー・モトーラ(カラブランカ〜ソニー・レコードのオーナーだった人/マライア・キャリーの元旦那)と名前がそっくりなことで混同される人ですが、シナトラやペリー・コモのバックを務めたギタリストでもある彼のイージーリスニング・カヴァー。

Keely Smith / Can't Take My Eyes Off You (2002)

 32年生まれのジャズ・シンガー、キーリー・スミスによるジャズ・オーケストラ・カヴァー。御歳84ですが、いまだに多作家で、沢山の作品で歌を披露しています。こちらは2002年、ファンから絶賛された名作『Keely Swings Count Basie Style with Strings』収録のカヴァー。タイトルからして企画も明快。そして何より歌声も素晴らしいです。

Bireli Lagrene & Sylvain Luc / Can't Take My Eyes Off You (2009)

 昨年、なにやら一切本人とは関係ないことで日本で有名になってしまったジプシー・ジャズ・ギタリストのビレリ・ラグレーン(註:2020東京五輪のロゴマーク問題で話題になったあの人が、過去ラグレーンのシルエットを無断パクリしていたことが判って騒ぎになった)。彼とシルヴィアン・リュックの共作シリーズは何枚もアルバムが出ていますが、その中に収められたギター2本のみのカヴァー。
Dida feat. Roy Hargrove / Can't Take My Eyes Off You (2010)

 新進気鋭の女性ジャズ・ギタリスト!というだけで注目してしまいますが、実は彼女はイスラエル出身の人で、しかもジャズ・ギタリストなのに弾き語りを得意とする珍しい人でもあります。彼女がアメリカに滞在していた時期に録音された、スタンダード曲のカヴァー集より。トランペッターのロイ・ハーグローヴをゲストに迎えてのカヴァー。
Lo Triò / I Can't Take My Eyes Off You (2014)

 アーティストに関してほとんどわかりません。フランスのジャズ・トリオとして活動なさってるらしい、ロー・トリオ。ご覧のようにバイオリン、ギター、コントラバスというジプシースタイルでのカヴァーですが、素晴らしいですね、シンプルで。実は曲もそうですけど、この映像が興味深くて、どうやったらこう収録できるのか個人的に研究中。

IMALU Live Lounge / Can't Take My Eyes Off You (2014)

 以前もご紹介したことがある、IMALUさんの音楽活動番組におけるカヴァー。以下、当方の個人的感想です。うん、上手いです。一様に日本人ってこういうの上手いですよねえ。歌も演奏もアレンジも上手いです。でもね、ここまでカッチリ器用に上手くやられると、逆に「だから何?」っていう疑問が強烈に浮き彫りになってしまうんです。音楽って「器用な人選手権」ではないハズなんですが。



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 女性ジャズ・ギタリスト、メアリー・オズボーン(1921-1992)の特集をやってみます。過去にも彼女が出演したTVライヴの映像を1ケ掲載したことがありますが、なにやら最近彼女の動画がいろいろ発見され(もしくは、ファンが彼女に注目するようになった、ということかも知れません)、見た事もないものがワンサカと共有されるようになりました。「世界一美しいギター」(=グレッチWHITE FALCONのこと)を手にする彼女は、やはり世界一美しいですね。(2016年7月8日更新分/選・文=大久)


Billie Holiday on Art Ford's Jazz Party (1958)

 まずブッ続けで3曲。こちらは1958年7月10日、ニューヨークのビターエンドで収録されたビリー・ホリデイのライヴ映像で、米東海岸で放映された「アート・フォードのジャズ・パーティー」の模様です。曲は「Foolin' Myself」「Easy To Remember」「Little Moonlight Can Do」。マル・ウォルドロンがピアノを担当してた頃の、晩年のビリー・ホリデイのお姿ですが、メアリー・オズボーンはなんとストロンバーグのマスター400を使用!

Mary Osborne / I surrender dear (1958)

 同じく58年7月10日の「ジャズ・パーティー」の一部ですが、メアリーのソロ・コーナーです。笑顔でリラックスしたビリー・ホリデイのお姿も貴重ですが、ファットな二の腕を晒してデッカいギターを抱える彼女に萌え萌えです。

Mary Osborne 1958 - intro by Marian McPartland @ Bitter End

こちらも演奏は前掲の「ジャズ・パーティー」の一部ですが、1999年に放送された「バード・アローン」という音楽番組の一部で、彼女の紹介をマリアン・マクパートランド(1913-2013)が行なっていますね。彼女はメアリーの先輩筋にあたるジャズ・ピアニストですが、まさか自分の方が長生きするとは思っていなかったと思われます。

Coleman Hawkins etc / Art Ford's Jazz Party (1958)

で、こちらの長尺動画はビリー・ホリデイとの共演時ではなく、歌っている女性はマキシン・サリヴァン。以前も紹介したコールマン・ホーキンス・バンドとの共演時のもので、番組全部が入ってます。いやあギターの音ぶっといですね。歪んでます。ジャズの歪みは、これでいいんです。

Mary Lou Williams & all girl band feat. Mary Osborne / He's Funny That Way (1946)

 さて最後はスタジオ音源。バラードです。1946年に78回転SP盤で出たメアリー・オズボーンの演奏で、歌うのはメアリー・ルー・ウイリアムス、演奏は以前チラっと書いた事のある「オール・ガール・バンド」が担当、そこにメアリー・オズボーンもフィーチャーされたという形です。原曲はもちろん「She's〜」のタイトルですが、女性が演奏すりゃもちろん「He's〜」になります。


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