2014年1月3日(金)

年頭のご挨拶など
 

 謹賀新年。2014年最初の〈週刊てりとりぃ〉をお届けします。画面上段を見てお気付きの通り、右上に配置している題字が今週より新しくなりました。こちら、前回同様、宇野亜喜良さんによる描き下ろし。これにより従来の題字が見られなくなるため、本項に再掲載しておきます。
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 〈月刊てりとりぃ〉をフォローする形で始めた本サイト、うっかりカウントしそびれていましたが、気付けば先月半ばで創刊から丸二年が経っていました。光陰矢の如し。二年なんてあっという間です。当初、宇野さんとは「季節ごとに題字のデザインも変えましょう!」なんて暢気に話していましたが、これまたうっかり依頼しそびれていたため、年末の慌ただしいさなか、駆け込みで宇野さんに

お願いした次第。そんな訳でなんとかギリギリ年始に間に合いました。
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 ファミレスでの雑談から生まれた〈月刊〉に対して、〈週刊〉はレイアウト担当の大久氏との長電話から生まれました。実のところ若干尻込みする筆者に対して「週刊更新、やりましょう

!」と背中を押してくれたのも彼です。とはいえ、ただでさえものぐさな筆者のこと、週イチ更新に対する不安から、創刊号の前口上ではちゃっかり﹁〈週刊〉が〈隔週刊〉にならないとも限らない」なんて、更新が滞った際の予防線を張っています。ところが、それも杞憂に終わり、この二年間滞りなく週刊ペースで更新を続けてこられました。これもひとえに寄稿者と、毎週レイアウトと更新作業に従事してくれた大久氏のお陰です。この場を借りて改めて感謝します。でもって、読者の皆様、これまで同様今年も〈週刊てりとりぃ〉を宜しくお願い致します。
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 さて、せっかくなので宣伝を。今年は昨秋よりスタートした、お茶の水にあるブックカフェ「エスパス・

ビブリオ」との共同企画(講座およびトークショー)を定例化し、出来ればこれまで以上に同人同士の交流を活発に出来ればと考えています。
 先月同店で開催した泉麻人さんと河崎実さんのトークショー「シュワッチとシェーの時代について語ろう」も同じく同人の小学館クリエイティブの川村寛さん、それにアーカイヴァーの鈴木啓之さんとの雑談から生まれたものですし、〈映画秘宝〉編集部の馬飼野元宏さんが編集し昨年八月に刊行された書籍「日本の男性シンガー・ソングライター」(シンコーミュージック刊)にも大挙して同人が寄稿しています。また、それを先駆けること一年前に刊行された書籍「日本の女性アイドル」も実は寄稿者の大半が本誌同人でした。
 直近では、来る一月十三

日の午後、NHK・FMにて放送される十時間の生番組「今日は一日、昭和の日本のコーラス・グループ三昧」に山上路夫、村井邦彦、泉麻人の三氏を始め同人が複数出演します(ほかにイラストレーターの和田誠さんやライヴ・ゲストにタイム・ファイブ、さらに複数のゲストをお迎えします)。ちなみにパーソナリティは筆者と鈴木啓之さん。また、今夏発売予定の全曲新録音となる「宇野誠一郎ソングブック」にも同人が大挙関わっています。
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 この春には〈月刊てりとりぃ〉が五十号を数えることもあり、何かしらパーティーのようなものも開催出来れば、なんてことも画策中。詳細は本誌にてお知らせします。
︵濱田高志=アンソロジスト)



連載コラム【ヴィンテージ・ミュージック・ボックス】その6
タブーを度外視したベニー・グッドマン

 50年代の半ば、黒人の間ではすでに広まっていたロックン・ロールをエルヴィス・プレスリーら白人が取り入れて演奏し、ロカビリー・ブームになったが、それに似た白人と黒人の音楽の融合は30年代にも起こっていた。当時スウィング・ジャズを大流行させたクラリネット奏者のベニー・グッドマンと彼の楽団の成功の裏には、黒人ミュージシャンたちの音楽性が大きく影響しているのだ。
 黒人の音楽に傾倒し、黒人差別に反対していたプロデューサーのジョン・ハモンドは、グッドマンがはじめて自身の楽団を組むときから大きく関わり、彼にアレンジャーとしてフレッチャー・ヘンダーソンを紹介した。ヘンダーソンは20年代に早々とスウィングの原型となるビッグ・バンド・ジャズを演奏し、白人から

も人気を得ていた黒人バンド・リーダー/ピアニストである。34年からグッドマン楽団はヘンダーソンが書いたダイナミックなアレンジで演奏し、アメリカ中をスウィング・ジャズ旋風に巻き込んでいった。
 ジーン・クルーパら白人たちの演奏も素晴らしかったが、ハモンドの強い薦めによってグッドマン楽団に

は、35年にピアニストのテディー・ウィルソン、36年にはヴィブラフォン奏者のライオネル・ハンプトンと二人の黒人ミュージシャンが加入する。スタジオ録音は別として白人と黒人が同じ楽団で演奏活動をすることは当時はタブーだった。
 黒人が在籍するこの楽団は、ジム・クロウ法(一滴でも黒人の血が混じってい

る人の公共施設の利用を禁止した法律)がある南部には巡業できなくなったが、それよりもグッドマンは質の高い演奏を選んだ。また巡業先での彼ら黒人への差別は酷く、差別的な言葉を浴びせる人にグッドマンは「もう一度言ってみろ、蹴り倒してやるぞ」と言い、彼らを守ったという。
 黒人たちの躍動感あふれる演奏によってグッドマンはスウィング・ジャズを極める一方で新たにトリオ、カルテットの演奏もはじめた。綿密な打ち合わせをしなくても息を合わせられるスモール・コンボは、ビッグ・バンドではむずかしいテンション・ノートを使った高度なジャズや、黒人ならではのセンスを存分に発揮する即興の応酬も可能だった。このスタイルが後のビーバップ~モダン・ジャズに繋がっていったのだ。

 38年1月、グッドマン楽団は大きなコンサートを開いた。カウント・ベイシー楽団、デューク・エリントン楽団で活躍する名うての黒人ミュージシャンたちをゲストに迎えて共演し、最先端のジャズを披露したのだ。クラシックの殿堂カーネギー・ホールで行われたはじめてのジャズ・コンサートという歴史的な意味も

あったこのイヴェントは、大きな話題となり、白人の聴衆への黒人音楽の認知は大きく広がった。
 39年にはもうひとりの黒人、ギタリストのチャーリー・クリスチャンが加入してグッドマン楽団は新たな展開を迎えるのだが、その話はまた次の機会に。
(古田直=中古レコード「ダックスープ」店主)
●写真上『ザ・ゴールデン・エイジ・オブ・スウィング』35~39年の絶頂期ヴィクター録音を60曲網羅したLP6枚組。カヴァーの王冠は「キング・オブ・スウィング」の称号から。 ●写真下『カーネギー・ホール・ジャズ・コンサート』38年のコンサートを収録。正式な録音はされていなかったが、50年にアセテート盤が発見され、LP2枚組として発表された。



沢村貞子と風を読む
 

 年明けの、静寂が支配する深夜の床の上で毎年思い出したように手に取る本がある。女優、沢村貞子が著した『私の台所』『私の浅草』『わたしの脇役人生』といったエッセイ群だ。
 父は狂言作者、兄は歌舞伎役者の四代目澤村國太郎、弟は俳優の加東大介という芸能一家に生まれ育ち、自身は老脇役として名を成したというプロフィールは、私的には後追いの知識として知ったようなところがあ

る。出演作にしても『秋日和』『お早よう』といった小津映画での印象以外、実はあまり覚えがない。名優、長門裕之・津川雅彦の叔母に当たると言えば同時代的な親しみも湧いては来るが、私にとっての沢村貞子は、やはりすぐれた人格者・生活者としての一級のエッセイストであり、だからこそ私は、敬意と親愛の情を込め「ていこさん」と本名で呼称するようにしている。
 貞子さんの文章はどこを

切り取っても一生活者としての静謐とささやかな楽しみが溢れている。たとえば夫婦水入らずで過ごす元日を写したセンテンスはこんな具合だ。「お屠蘇がわりの白葡萄酒を朱塗りの盃でひと口。お雑煮を祝い、おせちの重箱にかるく箸をつけたあとは──炬燵に膝をいれて、みなさまからの賀状を読む」。あるいはロケ先の休憩時間に自家製の三段重を開いた場面を描写した一文はこんな具合。「一番上には好物のお新香──ほどよくつかった白いこかぶと緑の胡瓜。傍には黄色も鮮やかな菜の花づけ。銀紙で仕切った半分には蜂蜜をかけた真赤な苺の可愛い粒。中の段には味噌づけの鰆の焼物。その隣りの筍と蕗、かまぼこはうす味煮。とりのじぶ煮はちょっと甘辛い味がつけてある。上に散らした小さい木の芽は、

朝、庭から摘んだばかり」と、まだまだ続く。いずれも庶民的ながら、だからこそ豊かな生活の一端が語られ、読んでいるこちらの方まで何とも言えず幸福な気持ちになって来るのだ。「女の子は泣いちゃいけない、何でもじっと我慢をおし──泣いてるとご飯の仕度がおそくなるよ」そんな言葉とともに家事一切を娘にしつけたご母堂の姿が、貞子さんの横顔には深く刻

まれている。
 生真面目で質実な性格ゆえ、若き日の貞子さんは新劇の女優として芸能活動のスタートを切ったものの、昭和7年、治安維持法違反で特高に検挙。赤い女優と誹られながらも、悪いことをした訳ではないのだから謝るのはおかしいと筋を通して一年八ヶ月もの牢獄生活を送ったという。何よりも日々の生活のことを、世界中の人たちが一人残らず

得をする平和な世界を無邪気に願っていた貞子さんらしいエピソードで、このことを思うと私は落涙を禁じ得ない。
 さて、昨年発表された「今年の漢字」は「輪」だそうである。即座に、ある知恵者は今年の漢字は「秘」だなと断じたが、ならば私は「亡」という一字を挙げようと思う。かの時代に踏みつけられ、そののち獲得したはずの生活者の権利を、あってはならぬ方法によって奪われた年であったからだ。──それでも、私たちは諦めることはないだろう。取り戻す努力を怠らないだろう。貞子さんがそうしたように日々の生活を愛し、だからこそ言に一段の強さを込めて2014年を生き抜くことが私たちの使命なのだ。
(関根敏也=リヴル・アンシャンテ)



「HIT SONG MAKERS~栄光のJ-POP伝説~傑作選」放送のお知らせ 

放送日時:1月4日(土)10:00〜12:55 [監修:濱田高志]

昨年BSフジにて放送された「HIT SONG MAKERS 栄光のJ-POP伝説」が特別番組枠で放送されます。今回は昨年放送された4本のうち「いずみたく」編「浜口庫之助」編「井上大輔」編の3本を連続放送。午前中の放送ですのでお見逃しなく!

番組紹介HP ⇒ http://www.bsfuji.tv/top/pub/hit_song.html